試写は年間300本 埼玉・川越だから残った映画館…川越スカラ座、番組編成は最初から最後まで観て選ぶ
映写室で上映の準備をする飯島千鶴さん=川越市元町の川越スカラ座
路地裏を進むと、昭和の時代に迷い込んだような映画館がたたずむ。1905(明治38)年に開業した寄席「一力亭」が起源の「川越スカラ座」だ。埼玉県川越市元町で1世紀以上にわたって、文化を発信してきた。現在、映画館を運営するNPO法人プレイグラウンドの副代表理事飯島千鶴さん(48)は、番組編成とイベントを担当している。何が起きた…カメラ向ける人々の先に、水面から飛び出た「逆さ足」角川映画祭で職人ら設置、作品上映へ
川越市出身の飯島さんにとって、川越スカラ座で最初の思い出は子ども時代に家族で「南極物語」(1983年公開)を見たこと。成長後も映画好きだったが、「映画に関わる仕事をするとは思ってもみなかった」と振り返る。川越スカラ座は2007年5月、先代の経営者が引退して一時閉館。プレイグラウンドが引き継ぎ、8月に復活した。飯島さんは館に掲示してあった求人を見つけて応募。08年にボランティアとなった。映画とは無縁の会社勤めなどを経験し、30代半ばで踏み入れた新たな世界。アルバイトを経て翌09年春ごろから番組編成とイベントを任され、映画館の正スタッフとなった。そして11年、NPO法人の副代表理事に就任する。現体制になってからは商業映画のメジャー作品とは一線を画するものを中心に、1~2週間ずつ上映している。飯島さんは「試写を年間300本ぐらい観(み)るが、最初から最後まで全編を観て選ぶ。そうしなければ評価できないから」と真摯(しんし)な姿勢を貫く。
イベントでは、監督の舞台あいさつに質疑応答時間をつくり、ミュージカル映画で一緒に歌うのも歓迎の回を設けたりと、参加体験型や双方向性の企画を催してきた。だが、コロナ下では内容が制約され、入場上限も定員124席の3分の2の82席に減らすなど、状況は厳しい。それでも、飯島さんは「古いものを大切にする街だから残ってきた映画館。ここは文化が蓄積していく場所。ちょっと息抜きに来ていただける存在であり続けたい」とほほ笑んだ。