【ドローン空撮の基礎】空撮時の心がまえについて重要なポイントまとめ①
数々の現場でドローン空撮を経験したベテランドローンカメラマンであるKさんに『ドローン空撮のいろは』をお教えいただくこの連載記事。これからドローン空撮を始めたいとお考えの方や、空撮はもう何回も経験しているという方などなど、この連載がドローンを楽しむ様々な方の参考になれば幸いです。
もくじ
ドローン空撮をする時は心に余裕を持とう
この連載は、いわゆる「ドローン空撮の基礎」ということになろうかと思うのですが、このテーマでドローン空撮を整理する時、どんな内容であれば初心者パイロットの方に有意義なものになるか、かなり悩みました。
空撮慣れ、という言葉こそないものの、ドローン空撮の場数をこなしていくと、基本的なことを無意識に行っていたり、あるいは一連の動作の中で省いていたりして基本に向き合う機会がないことも往々にしてあるわけです。
そこで、今回の記事では「いろはにほへと」の5つのテーマに沿ってドローン空撮の基本中の基本というものを抑えていきたいと考えています。
い・イメージを作ってから空撮に臨もう。
最初は、心構えの話になります。
空撮現場に到着し、自由に撮影できるとなったとき、まずはいきなり機体を組み立てて飛行させたくなります。美しい被写体を目の前にしたら、誰もがカメラを構えてシャッターを切りたくなりますよね。そのような気持ちが起きるのは仕方ないと思います。
しかし、そこをこらえて、良い空撮・良い画づくりのためには、最初に空撮イメージを作ることが重要です。周囲の安全確認を行い飛行に問題ない空域を目視で確認したら、そこからドローンを飛行させるとどのような画になるかを想像しておきます。
機体を離陸させてからもカメラを通して高さや距離などの確認を行います。これを空中ロケハンと言いますが、この確認を通して、安全な飛行を担保すると同時にどのような画を撮影するか、大まかな構想ができることになります。
事前に空撮イメージを作る方法ですが、Google mapなどの地図アプリを使って、現地の地形などを確認しておくことも有効です。事前の机上ロケハンということになりますが、その時点で、どこから離陸させるか、どこまでを空域とするか、どのポジションに位置するとどのような画となりそうか、ということが想像できます。これをやっておくことで、現地に着いたと同時に、機体の組み立てを行いながら、空撮イメージを作ることができるわけです。
空撮イメージを明確にしてから空撮する場合、バッテリー1本分当たりの撮れ高が変わります。イメージしないままのバッテリー1本分(約15分から20分)で撮影した場合、やたらに長くだらだらとした映像ばかりを撮影することになりがちですが、イメージができてから臨むと、メリハリの利いた映像を着実に撮影できます。
ちなみに、ドローンパイロットによっていろいろな考え方がありますが、私は、RECは毎回ON/OFFするようにしています。人によっては、離陸から着陸までRECしっぱなしという人もいるかと思いますが、十数分の映像を後から編集するのは非常に大変ですし、編集時には最初から映像を見て、良い場面を探すということから始めないといけないので、私は狙った映像を確実に撮りにいくことをお奨めしています。
そのためには、事前の机上ロケハンや、現地での空中ロケハンなどで、映像イメージを作り上げてから実際のドローン空撮に臨むのが効率的だと思います。
ろ・ロンリーはだめ!最初は仲間と一緒に楽しくフライト
1人で空撮に行く人も多いかと思います。特に、空撮することに慣れてくると、勝手知ったる場所であれば、誰にも邪魔されずに空撮できることもあり1人を好む方も多いようです。ドローン初心者のうちは、できるだけ仲間を作って一緒に空撮に行くようにしましょう。
仲間と一緒だと次のようなメリットがあります。
例えば、NDフィルター。現地の天候状態を考えてドローンに装着するNDフィルターを選定しますが、このような時にも仲間が何を選択するのか参考になります。私は好んでND4かND8を多用していて、曇り空でもND4は装着したりしています。また、ほとんどND32を使うことはせず、よほど日差しがきつい場合に使っています。これは、日陰部分の黒との差異が出過ぎるから、という理由なのですが、同じ条件で他の人がどういうフィルターを選定するか、とても参考になります。
飛行中に機体に何か異常を感じた場合、例えば、音がいつもと違うとか、エルロンやラダーの際に機体がいつもより揺れる気がする、とか、そのような変調に気づいた際に、仲間がいれば一緒に目視で確認してもらうことができます。
1人だと、まあいいか、で済ませてしまうかもしれませんが、仲間から「念のため一度着陸させたら」と言われたら、着陸させるかもしれません。他人に言われると冷静に対処しようということになるのです。その結果、例えばプロペラに小さなクラックがあったとか、ジンバルを固定したまま離陸させたとか、気づくこともあるわけです。
機体を仲間に目視してもらえることは、とても心強い時があります。特に空撮的に攻めているとき。滝の落ち際まで寄っていくとか、河の水面近くまで降ろすとか、木々の枝など、障害物が多くある場所でのフライトでは、仲間の目視による確認と声掛けは心強いものがあります。
さらには、何か異変があった場合。事故に至らないまでも、例えば目視外でフェールセーフが発動した時など、仲間がいてくれるとかなり安心感があります。特に何回も空撮を経験している仲間がいると、そのときの対処方法が適切だったりします。これが1人だと、初心者でなくてもかなり慌てると思います。
こうしたいくつかの理由から、私は、できるだけ複数人の仲間と一緒に空撮に行くことをお奨めしています。
は・バッテリーの残量注意。充電回数とバッテリーの寿命の関係とは。
バッテリーの残量には、常に注意を払うようにしましょう。バッテリー絡みの事故や、事故に至らないまでもヒヤリとする事例が多数報告されています。
バッテリー絡みで多い事故は、「フェールセーフの発動」です。フェールセーフは、主に次の3つの設定ができます。
このうち、屋外で空撮している場合は、多くの人がリターン・トゥ・ホームに設定しているかと思います。
フェールセーフの発動起因の1つがローバッテリーです。バッテリー残量が残り少なくなり、重度のバッテリーアラームの警告ともなると、フェールセーフを発動するか聞いてきます。フェールセーフを発動させるとリターン・トゥ・ホームが実行されます。このように、バッテリー残量によってドローンの制御をしなくてはいけませんので、常に残量を意識しましょう。
季節によって、バッテリーの寿命も変わります。特に、真冬の気温の中で空撮する場合、バッテリーの消耗速度は常温に比べて早いです。
DJIのインテリジェンスバッテリーは、温度が15度以上にならないと起動しないようになっており、冬の気温の低い時期はバッテリーを温めておく必要があります。一度起動できれば、外気温がマイナスであっても、通電していることで熱を発し、簡単に温度が下がることはありませんが、それでも熱を放出しているということは、電力エネルギーを常温よりも消費していることになりますので、その消耗速度をしっかり確認し、警告が出る前に早めに帰還させるようにしましょう。
私は、DJI Phantom4 Proのバッテリーを、古いもので2年ほど使用しており、その中でも充電回数の多いものは90回を越えています。充電回数はひとつの目安と言えますが、今のところ、このバッテリーも問題なく使えています。他と比べても極端に電力消費が激しいとか、目に見えた劣化はまだ確認できていません。
本当に劣化が見えてくると、バッテリーが膨れてきます。膨れてくることで、機体にはまりにくくなったりしますので、事故の原因にもなります。形状が変わってくるような変化が出てきたら、そのバッテリーは使用しないようにしましょう。
に・日没でも飛ばせるの?夜間飛行の定義
よく、夜間飛行とは、真っ暗になってから、いわゆる”夜”になってからの飛行のことだと、ざっくりと理解している人も多いと思います。夜間飛行の定義は、日没から日の出までと決まっていますので、空撮地での日の出・日の入り時間はしっかり押さえておくようにしましょう。
注意したいのは、日の入りを過ぎても、空はまだ明るく、目視で飛行させることができることも多いことです。しかし、日の入り後は夜間飛行ですので、その許可証を持っていないと飛ばせないことになります。特に、日の入り後には、いわゆる「マジックアワー」の時間が出現することもありますので、夜間飛行の許可はぜひとも取得しておきたいところです。
日の出も同様で、太陽が出る直前に美しい朝焼けを捉えることができる場合もあります。日の出直後を空撮したい場合は、日の出の時間よりも前に離陸しておくことが必要になるため、こちらもやはり夜間飛行の許可が必要となります。
空撮地の日の出・日の入りの時間をしっかり確認し、夜間飛行の許可は取得しておく。しっかりと意識しておいてください。
ほ・補助者を立てる重要性。目視外飛行の定義とは。
「ろ・ロンリーはだめ!」でも述べましたが、補助者の設置は非常に重要です。
パイロットである自分が気づかない位置の障害物の確認だったり、ふいに空域直下に入ってくる第三者の人払いだったり、補助者はパイロットはできない極めて重要な役割を担ってくれます。特に、空撮パイロットは、自分のモニターから目を離せない場面もたくさんあります。むしろRECを開始したら片時も画面から目を離さず、実にゆっくりと慎重に、それでいて大胆な機体操作、カメラワークを求められることになります。この、”画面から目を離せない状態”が目視外と定義されるわけです。この時、機体を目視しておいてもらうのが補助者の役割になります。
補助者は、パイロットに対する声かけも重要になります。機体を見ていないパイロットはカメラに映っている範囲以外は全く見ることができません。そこに、補助者が「後ろ!危ない!」とか「横、注意して!」など、漠然とした声かけではパイロットは何をどうすればいいのかわからず、機体操作を止める以外にありません。
補助者は、機体から見た障害物の距離や方向はなるべく具体的に指示しましょう。機体後ろに障害物があるのであれば、障害物までの距離をカウントダウンしてあげるのが望ましいです。「機体後方障害物、3、2、1、ストップ!」といった感じです。
このように、補助者にもまた、ドローンの理解と、補助者としてのプロフェッショナル性を求められることになり、この役割は極めて重要かつ、すぐにできるような簡単な仕事ではないことがわかるのです。パイロットの育成が求められる中、こうしたパイロットを支える補助者のような役割の人の育成も、ドローン業界では重要になります。