逃げ切れる? 「AirTag鬼ごっこ」実験 - ストーキング防止対策機能はどこまで有効か
自分のiPhoneとペアリングしたAirTagの位置を「探す」アプリで確認。今回は扱っていませんが、室内など近距離での探し物も可能です
Appleが講じるストーカー対策
iPhoneとペアリングされたAirTagは、持ち主から離れていても他のiPhoneのネットワークを使って位置情報を発信し続けます。つまり、持ち主が自分のAirTagをなんらかの形で他者に持たせれば、いつでもその人の位置を把握できてしまうのではないか。これが懸念の理由です。
Appleはこれに対し、次のような対策を講じています。
この対策はどの程度有効と言えるのでしょうか。実験で試してみることにしました。
「AirTag鬼ごっこ」で実験
実験は下記の手順で行います。
- 鬼役のiPhoneとAirTagをペアリング
- 逃げる役がAirTagを持って出発
- 鬼役が30分後に出発
- 逃げる役が目的地到着までにAirTagの通知に気付けば、逃げる役の勝ち
- 通知に気付かず、鬼に追いつかれたら鬼役の勝ち
今回は鬼役を筆者、逃げる役を編集部Iさんに依頼して実施しました。
1)実験スタート
2)30分経過
3)約1時間後、通知が届く
これにて実験終了! ルール的には鬼の負け、となりますが……。
実験結果から考えられること
今回の実験から得られた結果は下記の通りです。
これらの結果から、以下のことが考えられます。
現時点では実験サンプルが少なく、条件によっては結果が異なる可能性もあります。他の実験では、移動時間や移動先での滞在時間等によって挙動の異なる結果が出ています。
そのため、今回に限ってはという条件付きになりますが、総合すると「通知に気付くポイントまでは追跡可能だった」だったと言えるでしょう(後述しますが、通知に気付いてすぐAirTagを無効化すれば、それ以上の追跡はできなくなります)。
実験延長でわかったこと
通知が届いた後もAirTagを持ち続けたらどうなるのか…。それを調べるため、IさんにはAirTagを所持したままさらに数日過ごしてもらうことにしました。すると、新たに次のような結果が得られました。
これについては、他の実験でも同様に帰宅のタイミングで不明なAirTagを持っていると通知が届くことがわかっています。
音が鳴ったのは、しばらく一ヶ所に滞在した後、移動しようとカバンを持ち上げたタイミングです。ピロピロ…という音が20秒ほど続き、自動的に鳴り止んだとのことです。ただ、AirTagの存在を把握していないと何の音かわからないかもしれません。
これらの結果から、以下のことが推測されます。
不審なAirTagを持たされた際の対策
以上のことから、やはりAirTag鬼ごっこは逃げる側が不利であること言えます。移動中は通知や音を頼りにAirTagの存在に気付くしかなく、移動中に気づかなければ自宅に到着した時点でようやく気付くことになる恐れがあります。現実でこれが起きれば、自宅まで追跡されてしまうことになります。
もし誰かが自分の持ち物にAirTagを紛れ込ませていたら…。現時点で、能動的に身の回りの不審なAirTagを検出する方法はありません。万一に備え、その時にできる対策を考えておきましょう。筆者からは下記の内容を提案します。
1)AirTagに関する通知が出たらスルーしない
毎日多数の通知に接していると、見慣れない通知はついスルーしがちかもしれません。しかし、AirTagの通知はスルーしてはダメです。この通知が届いたら怪しい、と覚えておきましょう。
2)証拠を残すために、通知を開いてスクショを撮る
警察へ被害を届け出る際に必要となる証拠を残すため、通知を開いてスクリーンショットを撮っておきましょう。通知を開いたことはAirTagの持ち主には知らされません。
3)AirTagの電池を抜く(自宅以外の場所で)
AirTagは電池を抜けば無効化され、追跡を強制的に停止できます。ただし、その時点までに記録された位置情報は持ち主の「探す」アプリから確認できます。つまり、情報が途絶えた地点を特定される恐れがあるのです。
そのため、電池を抜く際は自宅から離れた場所で行う方が良いと考えられます。帰宅前に気付いたらなるべく自宅から遠い場所で。帰宅後なら、こちらが気付いたことを追跡者に知らせる意味でも、あえて無効化しないまま交番や警察署まで移動してから抜くのも手段となるでしょう。
4)相談窓口に相談する
不安があれば、管轄の警察署に被害相談を持ち込みましょう。2021年8月に「GPS機器等を用いた位置情報の無承諾取得等」を新たな規制対象とする改正ストーカー規制法が施行されます。AirTagが「位置情報記録・送信装置」と認められれば、AirTagを使った追跡は同法に抵触する行為となります。
ただし、「『探す』のネットワーク」を使ったAirTagの通信は暗号化されており、Appleですら解読できないとされています。AirTag本体だけでは警察が持ち主を特定し検挙することは難しいと考えざるを得ません。
それでも、キャプチャなど追跡された証拠があれば自宅周辺のパトロール等の措置を要望することは可能です。また、警察以外の専門機関・相談窓口のことも知っておきましょう。