「オープンイノベーション2.0」で国産ドローン基地を開発--「Take Off Anywhereプロジェクト」で
「オープンイノベーション2.0」で国産ドローン基地を開発--「Take Off Anywhereプロジェクト」での画像
SUNDRED、ACSL、VFR、センシンロボティクスは2月9日、2021年に発足した「Take Off Anywhereプロジェクト(TOA)」の成果として、国産ドローンポートを開発、量産化したことを発表し、東京国際フォーラムにおいて実機をお披露目した。 TOAは、ドローン技術を社会に実装していくための取り組みで、企業や業界の垣根を超えたオープンイノベーションで推進されている。同ドローンポートの開発はVFRがリードし、TOA参画企業との共創で進められたという。 TOA発足からちょうど2期目の本発表会では、KDDIら5社が新たに参画したことも明らかになった。デベロップメントパートナーとしてモリタホールディングス、協賛パートナーとして、KDDI、藤和那須リゾート、ブルーイノベーション、プロドローン、ベルデザインが、新規参画したという。 ドローンポートとは、いわゆるドローンの基地。従来のようにトラックでドローンを運んで現地まで行かなくとも、各地にドローンを格納したポートを配備しておくことで、いつでも必要なときに遠隔でドローンを利活用できるようになる。“ドローン前提社会”を下支えする重要な要素だ。 今回発表されたものは、ハードウェア、ソフトウェアの設計ともに国産メーカーが手がけており、「国産ドローンポート」として量産化まで辿り着いたのは、国内初だという。 対応機種は、ACSL社製の汎用機体「PF2」。全天候対応のシェルター型で屋外に設置でき、ドローンへの自動充電、機体の自動離陸と着陸、LTEと5G通信による運航管理と監視も可能。機体のみならず、ポート自体がネットワーク化されるという点は注目だ。 今後の展開として、2023年度には販売台数100台から数百台を目指す。価格は、多様な用途に対応する組み込み系となるため、エンドユーザーへの配慮から非公表とされたが、VAIOの子会社として設立されたVFRの“量産を前提”とした開発ノウハウによって、低価格帯を実現したという。世界的な半導体の価格急騰により、さらなる価格低下に苦心するも、「価格と性能のバランス」を重点テーマにさらなる開発を進める。 また、ACSL製のセキュアな小型空撮機「SOTEN(蒼天)」をはじめ多様な機種への対応や、車両とポートの一体化なども含めて、ラインナップの拡充を図る。将来的にはポート本体の給電においても、カーボンニュートラルにチャレンジしていく予定だ。ポートから機体への給電部も披露 発表会はリアルとオンラインのハイブリッドで開催されたが、リアル会場では国産ドローンポートの屋根が開閉する様子などがお披露目された。サイズは横1900mm×奥行き1650mm×高さ1180mm、どっしりとした存在感があるが、屋根はとても静かにゆっくりと開いた。 積雪や暑さなど気温の変化は、ドローンが苦手とするところ。保温ヒーターによるバッテリー低温保護や融雪機能、屋根の傾斜による耐雪能力強化、白色遮熱塗装や、床下から冷気を取り込むファン搭載などの対策が講じられ、VAIOがPC事業で培った技術も光る。 登壇者のプレゼン中、屋根が閉じたドローンポートからは、ファンの稼働音が定期的に聞こえたが、登壇者の声をきちんと聞き取れる穏やかな音だった。 そして、このポートの目玉は、ACSL-PF2用に充電給電部や充電回路システムを新規に設計した点だ。機体が自動着陸して屋根が閉じると、充電する仕組みになっている。 接触型充電であるため、機体の位置補正機構も搭載されていた。というのも機体は、マーカー着陸するが風の影響などで、ポート中央から少しずれた位置や、斜め向きで着陸することもあるためだ。こちらは機体の位置を補正するところだが、今後は非接触充電も検討するという。“オープンイノベーション2.0”で加速するTOAプロジェクト ドローンポートのお披露目に先立って、TOAの共創パートナーであるSUNDREDの留目真伸氏と、デベロップメントパートナーであるACSLの鷲谷聡之氏が登壇した。留目氏は“オープンイノベーション2.0”の重要性について、鷲谷氏はドローン産業のロードマップについて説明した。 留目氏は、「自社がやりたいことに対して足りないものを、外部から持ってきて活用しようというのが、オープンイノベーション1.0。しかし、いまの多様な社会の単位にある、複雑な課題を解決することは、1社ではできないし、目的の定義すらできない。“オープンイノベーション2.0”でドローン産業を共創していくことが重要」と話した。 オープンイノベーション2.0とは、企業や業界の垣根を超えた対話を通じて、「どのような単位で社会を切り取り、目的を定義するか」を共に見出し、各自がこれまでのメンタルモデルを乗り越えながら、共感でつながるチームを作り、エコシステムの構築を進めていくことだという。そして、インタープレナーと呼ばれる越境人材が、その役割を担う。最初から商談をするのではなく、一個人として「どんな世界を作りたいのか」を語り、目的を達成するために自分が動かせるアセットを動かし、かつ自分が所属する組織にも利益をもたらしていく。 留目氏は、「TOAでは、機体開発から始まり、システム、基地と、目的の共創、プロトタイピングの推進、社会実装を進めてきた。今後はカーボンニュートラルの取り組みも行っていく」と話して講演を締めくくった。 鷲谷氏は、ドローン市場を取り巻く環境について、4つの視点で整理した。「1つめはセキュリティ。ドローンはデジタルデータの宝庫であり、乗っ取り防止なども含めて、ポートのセキュリティも一体で考えることが重要だ。2つめは脱炭素、クリーンエネルギー。クリーンエネルギー設備投資増加や、トラック物流をドローンに置き換えることで脱炭素を図るなどのトレンドがある。3つめはデジタル田園都市国家構想、スマートシティ。日本は人口減少が進んでおり、地方創生や国土強靭化において人の代替となり得るドローンは不可欠だ。4つめは航空法改正による有人地帯上空における目視外飛行の緩和。2022年内には航空法が改正され、2023年以降は遠隔操縦でのドローン利活用が増えていく」(鷲谷氏) また、「保安や見守りといった用途が増える」「セキュアであるかどうかは、政府だけでなく民間の利活用でも求められる」と、今後の見通しにも触れ、TOAの取り組み範囲をさらに広げていく意欲を示した。「ドローン×カーボンニュートラル」を目指す ドローンポートのお披露目に続いて、デベロップメントパートナであるVFRの湯浅浩一郎氏と、センシンロボティクスの吉井太郎氏が登壇した。湯浅氏は、TOAの今後の展望について、吉井氏はドローンポートの可能性について話した。 湯浅氏は、「TOAで注力していく1つめの領域は、カーボンニュートラル」と明言。新たに参画したKDDI、プロドローン、ブルーイノベーションと共同で、物流用の機体開発、社会実装可能な物流ソリューションの提供に取り組むほか、「自己完結でエネルギーを賄い、ドローンを自動で飛行させる」ドローンポートの実現も目指すという。すでに、ソーラーパネルからの給電も検討中とのことだ。 また、CO2の削減そのものを目指して、森林管理システムの開発も始めていることを明かした。樹木データの可視化、CO2の排出量をAIにより解析して最適な森林管理を図る予定だ。湯浅氏は、「森林管理システムについては、来年のこの時期にぜひ進捗を報告したい」と話した。 吉井氏は、センシンロボティクスが2016年からポートの研究開発を進め、2017年からは商用提供してきた経験を踏まえ、「シェアリングビジネスの実現」や、「サイバーフィジカルシステムの実現」など、ドローンポートが実装されるからこそ開かれる“未来”に期待を滲ませた。 「人間を運用作業から解放するという1点だけでも、ドローンポートは素晴らしいが、日本の企業の大半を占める中小企業にとっては、機材の価格、運用スキル、データ解析ツールなど、さまざまな面においてドローンはまだまだハードルが高い。ドローンの基地を日本全国覆うようなメッシュで設置して、みんなでシェアする仕組みが整えばコストを分担でき、データもシェアすることで、新しい価値を創造できるのではないか」(吉井氏) 「また、ドローンポートを、エッジコンピューティングのノードと捉えた仕組みを構築することで、機体やポートで1次処理、2次的な解析を行い、人間が本当に必要な解析データのみをクラウドにアップすることが可能になる。フィジカル空間のより多くのデータを、より統計的、分析的、解析的に、誰しもが使えるのではないだろうか。ネットワーク化されてポート同士が接続され補完し合うことで、より強靭なシステムになることも期待できる」(吉井氏) 最後に、新規協賛パートナーであるブルーイノベーションの那須氏も登壇して、自社開発するドローン運航管理システムBlue Earth Platform(BEP)を紹介した。同社は、ドローンポート開発のなかで、自治体を中心とした実証、IHI、京セラ、NTTドコモなどのパートナ企業との開発連携も行ってきたという。 那須氏は、「ブルーイノベーションは、ドローンポートおよび運航システムの国際標準化に向けて、ISO Vertiport(垂直離着陸用飛行場)WGの委員長も務めている」と話したうえで、今後はさらなるオープンイノベーションの加速や、BEPを介したドローンと地上走行ロボットとの連携も図りたいと意欲を示した。
最終更新:CNET Japan