沿って, Uav-jp 25/02/2023

熱を帯びる「空飛ぶクルマ」開発レース、欧米政府は支援を強化 ~北米ドローン・コンサルタント 小池良次~

Bell Nexusのビジネスを分析する

 このように航空機大手がeVTOL開発に熱をあげるのは、航空業界にとって久しぶりの新市場「UAM(都市航空交通システム)」が期待されるからだ。UAMとは短距離移動に航空機を利用するビジネスの総称だが色々な事業モデルがある。もっとも有望なのが空港と都心を結ぶ送迎ビジネスだ。

 たとえば成田空港は、年間4260万人(2018年)が利用する。その大半は東京都内から、あるいは都内を経由するバスや電車を利用している。非常に大雑把だが、もし全体の3%が電車やバスの代わりにeVTOLを使って都心にゆくとすれば、年間利用客は推定で13万人。月間1万人の空港送迎客が見込めるというわけだ。成田空港から東京駅まで電車なら約1時間だが、eVTOLなら15分から20分程度で済む。旅客回転率を高めればハイヤーなみの料金で運行も可能だろう。

 世界の主要空港で都心向けeVTOL送迎サービスが始まれば、数万機のeVTOL需要が見込める。大手航空機メーカーが目の色を変えるのもうなずける。

 この送迎サービス向けに開発中の機体といえば、Bell Nexusが典型例だろう。19年1月、ネバダ州ラスベガス市のCES(国際家電見本市)でお目見えした同機は、2大ヘリコプター・メーカーのひとつBell Helicopter Textron社が実用化をめざす可変有翼(Vectored Trust)タイプのeVTOLだ。

熱を帯びる「空飛ぶクルマ」開発レース、欧米政府は支援を強化 ~北米ドローン・コンサルタント 小池良次~

 プロペラは、騒音低減と安全性確保のためダクトと呼ばれる筒状のフレームに収められているが、その直径だけで約2.5メートルに達する。6機のダクトを機体の周りにまとめ、水平飛行では、ダクトと短い翼で浮力を得る。今回展示されたのは実物サイズだが、Nexusが試験飛行を開始するのは数年後となるだろう。

 実物を見るとわかるが、Bell Nexusは40フィート(12メートル)四方という標準的なヘリポートの大きさにギリギリ収まる巨体だ。たかだか5名(1名はパイロット)を運ぶのに総重量は3250kgの「こんな巨体が必要なのか」とつい疑いたくなる。

 2名乗りのAirbus社 A3 VahanaやBoeing NeXt社PAV(passenger air vehicle)が軽乗用車なら、Bell Nexusはトラックといったイメージだろう。

 Bell社はなぜ、このような大型で堅牢な仕様にこだわったのだろうか。それは安全性と運用時間の最大化を目指したためだ。

 商業航空機は少々の風や雨、雪でも離発着する。であれば、空港が運行している限り空港送迎サービスは止められない。同じ厳しい気象条件に耐える機体を考えるとBell Nexusのような頑丈な機体となる。

 それであれば「既存のヘリコプターで送迎サービスをすれば良い」という疑問も湧く。米国ではBlade社が、ブラジルではVoom社がヘリコプター送迎サービスを展開している。

 ヘリコプターの問題は騒音と安全性だ。特に、地下鉄などを遥かに超える騒音問題は深刻で、頻繁に都心に着陸することはできない。Bell Nexusがダクト方式を採用した最大の理由は「騒音の低減」にある。同機は地下鉄構内や高速道路(100デシベル以下)程度をめざしており、実現すれば都心の中高層ビルで離発着ができるだろう。

 また、ヘリコプターはローターがひとつしかないので、故障が起こればすぐに墜落の危機に結びつく。一方、6つのローターを持つBell Nexusならひとつ止まっても、すぐに墜落しない。理論上、ヘリコプターに比べ、複数のローターを持つeVTOLは安全性が高いといえる。

 ただ、Nexusなみの堅牢な機体となれば、価格は大型ヘリコプターや小型プライベート・ジェット並になると予想される。一般個人が買える価格ではない。