沿って, Uav-jp 28/08/2022

ポニーキャニオンエンタープライズが空間オーディオ用スタジオを新設。“音楽的に使いやすい設計”の全貌に迫る

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(写真:PHILE WEB)

ポニーキャニオンエンタープライズが空間オーディオ用スタジオを新設。“音楽的に使いやすい設計”の全貌に迫る

音楽の在り方に今、「空間オーディオ」という新たな潮流が訪れている。空間オーディオ(イマーシブオーディオ)は、ステレオスピーカーや従来のイヤホン・ヘッドホンリスニングとは異なり、全身を“包み込まれる”ような音楽体験を得られる方式。映像作品の分野では以前から活用されており、また近年は、少しずつではあるが音楽作品も登場してきていた。作り手を取り囲むように配置されたスピーカーたちそして昨年6月、Apple Musicが空間オーディオの音楽作品の配信をスタート。スマホとAirPodsがあれば誰でも体験できる気軽さもあってか、日本での認知度を一気に拡大した。こういった拡大の流れはリスナー側だけの話ではなく、アーティストをはじめとしたコンテンツホルダー側でも、空間オーディオ作品を作ろうという機運が高まってきている。この流れを受けて、ポニーキャニオンエンタープライズでは、新たにドルビーアトモス対応の“音楽作品向け”スタジオを作ったのだという。スタジオオープンに伴いご招待いただいたので、その全貌を紹介したい。■音楽作品のアトモスミックスを行うための新スタジオ「MA-2」同社は以前より2室のドルビーアトモス対応スタジオを有しており、ここで映像・音楽作品のアトモスミックスなどを行ってきたが、Apple Musicの空間オーディオ配信を皮切りに、音楽作品のアトモスミックスの依頼が急増。既存のスタジオだけでは対応しきれないほどの量になりつつあったため、6.1chサラウンドで稼働していたスタジオ「MA-2」を、9.1.4chのドルビーアトモス環境へとリニューアルさせたのだという。リニューアルにあたってはエンジニアなど作り手側の意見も取り入れ、「より音楽的に使いやすいスタジオ」となるよう設計。モニタースピーカー/サブウーファーには、多くのレコーディングスタジオで採用されているためエンジニアにも耳馴染みが深い、という理由からジェネレックのものを採用している。また、既存のアトモス対応スタジオはスタッフの導線等も考慮し、リアスピーカーが後方斜め上に位置する設計となっているが、今回のMA-2は音楽制作を念頭に置き、サラウンド用の9スピーカーをフラットに配置したとのこと。最大のポイントが、新たにコンシューマー機器からの出力経路を確保したこと。つまり、このスタジオでは「制作用PCから出力するマスター音源」と、「ストリーミングデバイス+AVアンプから出力するApple Musicなどの音源」を、同じモニター環境で聴き比べることが可能なのだ。多くのクリエイターやエンジニアにとって、音楽作品のアトモスミックスは言わば未知の領域。既存の空間オーディオ作品が各スピーカーをどのように活用しているか、またはマスター音源と実際にディストリビューションされる音源とに違いがあるのかなど、制作用のモニター環境で確認できることは、ミックスにおける強力なサポートになるという。一般的にスタジオの機器類は複雑にネットワークが張り巡らされているため、コンシューマ機器を割り込ませることは難しいそうだが、今回、タックシステム製モニターコントローラー「VMC-102」の導入により実現。AVアンプには、現在の市場でも最高峰クラスのスペックを持つことや、“まさにスタジオで作ったそのものの音が出る”という理由から、デノンの「AVC-A110」を導入している。記者も本スタジオでApple Musicなどの空間オーディオ作品を試聴させていただいた。「プロのスタジオ環境で空間オーディオ作品を聴く」という経験自体が数えるほどしかないものの、ここはその中でも飛び抜けて解像感の高いサウンドだ。空間オーディオ特有の“包まれ感”はキープしつつも、それぞれの音がどこでどう鳴ってるかがしっかりと見える。素人ながら、空間オーディオのモニタリングが高いレベルで可能なスタジオだと思えた。ドルビーアトモス作品をリビング環境で検証するための試写室も■ドルビーアトモス作品をリビング環境で検証するための試写室もしかし、いくらコンシューマー機器からの出力ができると言っても、あくまでスタジオ環境。クライアントからも「一般ユーザーの環境でも聴いてみたい」というリクエストが度々あるという。そこで使われるのが、試写室「EMULATION A」だ。EMULATION Aは、BDやDVDの出荷前の検証や、コンシューマー機器でのドルビーアトモス作品プレビューなどに使われる部屋。リビングを模した室内には7.1.4ch環境が構成されているため、AVアンプでの試聴が可能なほか、サウンドバーも各主要メーカーのモデルが取り揃えられている。せっかくなのでと、スタジオと同じソースをAVC-A110や、デノンのドルビーアトモス対応サウンドバー「DENON HOME SOUND BAR 550」+ネットワークスピーカー「DENON HOME 150」2基のリアルサラウンド環境で改めて聴いてみた。もちろん完全に一致とはいかないものの、AVC-A110での7.1.4ch再生はスタジオに肉薄するレベルの空間表現が味わえる。むしろ解像感が低くなっている分“包まれ感”がより強く、リラックスして聴けるサウンドになっている印象だ。SB550のリアルサラウンドは4.0chという構成上、低域の弱さなどは否めないが、十分にドルビーアトモスのエッセンスを楽しめる。むしろ価格や設置の手間などを考えれば、かなりの高パフォーマンスと言えるだろう。少なくとも今回体験させていただいた限りではあるが、Apple Musicなどで聴ける空間オーディオ作品は、スタジオマスターの“鮮度感”を限りなく損なわない状態で届けられていると感じられた。■ドルビーアトモスのライブ配信サービス「NeSTREAM LIVE」もローンチポニーキャニオンエンタープライズによる空間オーディオへの取り組みは、これだけに留まらない。昨年末にはラディウス/メモリーテック/キュー・テックとの共同で、ドルビーアトモス/4K対応の動画配信サービス「NeSTREAM LIVE」をローンチしている。サービスの詳しい解説は高橋敦氏のレポートに任せるが、ここで特筆したいのは「ドルビーアトモスでのライブ収録から配信までがパッケージングされている」ということ。つまり、アーティストやレーベルなどが「ライブを空間オーディオで配信したい」と思った場合、NeSTREAM LIVEに話を持ち込めば全て解決するのだ。記者は昨年6月、ポニーキャニオンエンタープライズによるヒゲダンライブのアトモス配信実験に参加させていただいたが、そこで「ドルビーアトモス用のマイク設置から収録、配信プラットフォームの用意まで、空間オーディオでのライブ配信はまだ全貌が見えづらいため、配信する側も手を出しにくい現状がある」という話を伺っていた。この“見えづらい全貌”をワンストップで提供してもらえるとなれば、配信する側のハードルも随分と低くなるのではないだろうか。また、「会員登録不要・アプリDL&コード入力だけ」という手軽さから、例えばドルビーアトモス対応サウンドバーにお試しコードを封入したり、空間オーディオの試聴音源を配信したりと、ライブ配信に限らない拡張性もあるという。ちなみに本サービス、体験用のスペシャルコンテンツも用意されているので、気になる方は試してみてほしい。『僕らのミニコンサート』より、宮里直樹(T)、松村優吾(P)チャイコフスキー《エフゲニ・オネーギン》第2幕 「あの輝かしい青春の日々はいずこへ」(レンスキー)Tchaikovsky EUGENE ONEGIN ActII “kuda, kuda, kuda vy udalilis”(Lensky)・イベントコード:PRS1・シリアルコード:88V424R3少し前まで「マニアックな音楽スタイル」だった空間オーディオは、今、加速度的に進化を続けている。空間オーディオが誰でも楽しめる「普通の聴き方」になる未来は、そう遠くないのかもしれない。

編集部:杉山康介

最終更新:PHILE WEB