光と闇を表すホログラムが、新たな空間と時間を生成する:生成するアートシリーズ#5 菅原玄奨
彫刻家・菅原玄奨の作品は粘土でつくる彫刻だ。型取りの工程を経てFRP(繊維強化プラスティック)に置き換えることで現代人の質感やフォルムを追求し、グレーの塗装で匿名の女性をつくり上げた《a girl》シリーズ、ホログラム塗装によって制作された《Ectoplasm》シリーズなど、菅原は彫刻をとりまく“展示環境”をも作品の一部に取り込んで制作をする。
特にホログラムの作品《Ectoplasm》シリーズは、粘土に残した粗めのタッチの上にホログラム塗装を重ねることで、光の加減で作品の表情が変化する。作品の周りの光が変わるだけで、作品自体が毎回新しい顔を見せてくれるのだ。この光のコントラストは、作品の身体性と作品がもつ「空虚さ」を、その空間に浮かび上がらせる。今回は菅原に、「生成するアート」について話を訊いた。
──菅原さんのアーティストとしてのアイデンティティを教えていただけますか。
現代⼈の印象に、どこかプロダクトにも似た冷たさを抱く瞬間があり、作品の素材には工業製品と関係するものを多く取り⼊れています。
例えば、ボートや浴槽などの製品に多く用いられるFRPを、粘土でつくった原型の“型”に流し込むことで作品を成形しています。粘土はすぐに壊れたり形が崩れたりしてしまうので、型をとって別の素材に置き換える必要があるからです。作品の表面にはあえてクルマのボディーなどに使用する特殊な塗料を吹き付けて、プロダクト的なイメージをより顕在化させています。
これらの技法を使った立体作品は過去にいくつも見てきましたが、いわゆるアカデミックな具象彫刻という領域に接続されたものを見たことがないので、これはわたしのアイデンティティと言えるのかもしれません。
また、幼いころから立体物を直接素手で触り、その形を感触的に確かめることがとにかく好きでした。わたしの作品に多く取り⼊れている塑造という技法(粘土を使った彫刻表現)は、その好奇心の延長にあるのかもしれません。塑造は、筆やキーボードなどのツールを介すことなく、押したり盛りつけたりする身体的なアクションがダイレクトにそのまま形になっていくのが魅力だと思っています。
──クリエイティヴィティの「源泉」と言えるものはありますか。
クリエイティヴの源泉というよりも、動機に近いかもしれませんが、創作は自分を客観的に見つめるためのひとつの手段だと考えています。
わたしが普段見ているものや感じていることはいったい何なのか。ひいては自分の存在とはいったい何なのか。日々の創作活動を通して確認しています。
展覧会ではそこから他者との対話を生み出し、美術史的な知見や属性の異なる第三者の意見から自己を観察するようにしています。単一的な視点ではなく、より多角的な視点で考察したいという想いから、360度の視点から鑑賞できる彫刻を選択しています。