女性教員や一流大学生が「オレオレ詐欺の捨て駒」になる裏事情(FRIDAY) - Yahoo!ニュース
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58コメント58件一度、詐欺に加担するとなかなか抜けられない……(画像:アフロ)
昨年、岡山県で20代の女性教諭が、特殊詐欺にかかわったとして逮捕された。女性教諭は公立小学校の常勤講師を務めており、結婚して子供もいたという。だが、借金を抱えていたことから、条件のいい副業を探しはじめる。【画像】特殊詐欺 460億円集め「キング」と呼ばれた「男の素顔」写真事件の前年、彼女がSNS上で見つけたのが闇バイトの募集だった。当初から彼女が仕事内容を特殊詐欺だと把握していたかどうかはわかっていない。だが、多額の報酬がもらえると知り、応募した。それから彼女は兵庫県を中心にして、特殊詐欺グループの指示に従って複数人に対して特殊詐欺をする。被害者と会って現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」、そのキャッシュカードをつかって現金を引き出す「出し子」の両方を掛け持ちしていたという。女性教諭の報酬は1割ほどだった。報道によれば、被害総額は約680万円だったというから、単純計算して68万円ほどを稼いだことになる。だが、21年5月、女性は岡山県内のATMで他人のキャッシュカードをつかって現金を引き出したところを警察によって逮捕される。その後の取り調べによって、判明しているだけで53件の被害にかかわっていたことが判明した。◆被害増額は285億円国の発表によれば、昨年度の特殊詐欺における年間の被害総額は285億円とされている。特殊詐欺の犯罪組織の主要メンバーは、主に半グレだ。彼らはインターネットを駆使して「かけ子」と呼ばれる人間を集め、裏世界で流通している名簿をもとに電話をかけていく。相手をだました上で、別に集めた「受け子」に被害者から現金やキャッシュカードを受け取らせたり、「出し子」に預金を引き出させたりする。特殊詐欺の主要メンバーにとって、逮捕リスクの高い「受け子」「出し子」は捨て駒だ。主要メンバーは電話やSNSによって彼らを遠隔から操作し、警察に捕まればトカゲの尾のように切り捨てて逃げる。今回の取材で、この主要メンバーの一人が、「受け子」「出し子」のリクルート方法について次のように語った。「岡山で逮捕された学校の先生がどういう人間かは知らないが、ニュースを見た時は『扱いやすい女だったんだろうな』と思ったよ。俺らの側からすれば、一番利用しやすいタイプ。受け子とか出し子って、ヤンチャ(不良)がやっているイメージがあるかもしれないけど、全然ちがう。ああいう奴らは、危なっかしくてつかいたくねえ。それより大人しい、いじめられっ子タイプがもっとも合ってるんだ。だから、俺らもそういう人間を見つけようとしているんだ」実際に、私も刑務所や少年院で特殊詐欺にかかわって逮捕された人たちにインタビューをしたことがあるが、典型的な不良というより、むしろ口数の少ない臆病な印象のある人のほうが多かった。なぜ女性教諭のような人間を「扱いやすい」と考え、積極的にリクルートするのか。主要メンバーの証言から、その理由を明らかにしたい。特殊詐欺の被害者の8割以上は高齢者だ。だが、加害者の平均年齢ははるかに下がる。昨年の統計では、特殊詐欺で逮捕された人間の7割が10代から20代の若年層なのだ。さらにいえば、事件の9割において共犯者(大半の場合は主要メンバー)が摘発を逃れている。◆受け子に若者が多いワケ先の女性教諭にしても逮捕時は20代だ。なぜ、末端である受け子や出し子は若い世代が多いのか。その理由をメンバーは次のように語る。「まずリクルートをSNSでやっているというのがあるだろうね。だから、若い人間の方が引っ掛かりやすい。また、若い人間は一から十までネットで済ませることに慣れているだろ。だから、仕事の内容がよくわからないまま話に乗って来るし、直接会わなくてもSNSの指示だけで動いてくれる。俺らにしてみれば、いろんな都合の悪いところをボカシながら、ドローンみたいに遠くから操作できるってわけだ」簡単に乗ってきて、よく働くのが、「20代の借金のある生真面目でおとなしい人間」だという。特にギャンブル依存、買い物依存などで首が回らなくなっている人間が適しているそうだ。彼らの多くは依存症になる過程で頼れる人間を失って孤立している上、精神的に追いつめられているので善悪の判断能力を失っている。それゆえ、SNSの闇バイトを見つけると、飛びついてくるのだ。同じようなことは、家出中の10代後半から20代の若者にも当てはまるそうだ。親に虐待されている若者や、恋人からDVを受けている若者は、すぐにでも今住んでいる家を出ていきたいと思っているが、まとまった生活費がない。それで藁をもすがる思いで闇バイトに応募してくる。では、なぜ「真面目」「おとなしい」がいい条件になるのだろうか。それは、特殊詐欺には、受け子や出し子を恐怖で支配する構造があるからだという。先の人物はこう話す。「最初は、みんな、報酬の金額に目がくらんで応募してくるから、仕事の中身が犯罪だと理解してねえヤツだって多い。大体はやりはじめてから気がつくんだけど、その時に警察に通報されたら、俺たちが捕まる可能性がある。だから、応募を受けた時点で、俺たちはそいつの家の住所、顔写真、会社、家族の情報などあらゆるものを提出させるんだ。大抵『履歴書』と言えば、何も疑わずに教えてくれる。個人情報をつかめば、こっちのもんだ。俺たちは『もし警察に行ったらお前のところへ行って殺すからな』つって脅した上で、仕事をさせる。そうすれば、途中でヤツらが抜け出したいと思っても、個人情報をつかまれているからビビッて逃げるような真似はしないだろ。真面目で大人しい人間のほうがビビりやすいし、言いなりになりやすい。だからそういう人間の方が合っているんだよ」◆一流企業の人間が捕まれば……公務員や一流企業に勤めている人間であれば、特殊詐欺に加担していることが明るみに出れば、逮捕されるだけでなく、全国的なニュースになってしまう。だからこそ、どんどん深みにはまってしまうのだろう。逆に、不真面目な人間が適さないのは、途中で行方をくらましたり、つまらないミスをして捕まったり、同じ反社会のグループに助けを求めたりすることがあるからだそうだ。だから、薬物依存のような人間は「つかえない」として断るのがほとんどだという。あくまで遠隔ロボットのように、忠実に言いなりになって働く人間を求めているのだ。去年だけでも、冒頭の小学校の女性教諭の他に、役所に勤める公務員、一流大学の学生などが特殊詐欺で逮捕されている。そこには、特殊詐欺グループが求める人材と合致していたという事情もあるのかもしれない。では、特殊詐欺グループは、そんな捨て駒にどれくらいの報酬を与えているのか。先の人物は言う。「グループや仕事によっても違うけど、普通は取った金の1割とか、1回につき20万円前後とかだろうな。俺たちは相手を恐怖で支配してコントロールするけど、無報酬じゃ、遅かれ早かれ逃げられてしまう。だから共犯者に仕立て上げることで離れられなくするんだ。とはいえ、受け子や出し子は、いつかは捕まる駒でしかない。そして俺たちはヤツらが捕まれば切り捨てて逃げるだけ。だから、俺たちは儲かっても、受け子や出し子が勝ち逃げすることはできないシステムになってる」脅されてやっている末端であったとしても、特殊詐欺で逮捕されれば、初犯でも2、3年の実刑が下されることが多い。それを考えれば、いつかは逮捕される無限のループに組み込まれるということなのだろう。逮捕された受け子や出し子はどうなるのか。大人であれば刑務所で罪を償うことになり、若者であれば少年院で1年ほど更生プログラムを受けることになる。特殊詐欺の被害に遭って生活できなくなった高齢者たちの嘆き、家族が崩壊した人たちの苦しみなどを教えられ、グループミーティングを通して自分の罪の大きさと向き合う。◆出所して再び手を染める特殊事情だが、先の特殊詐欺のメンバーによれば、少年院や刑務所を出た後に、再び闇バイトに応募してくる者も少なからずいるそうだ。彼の言葉である。「特殊詐欺でムショに入ってたヤツが、出所してすぐにまた応募してくることもあるよ。1回捕まったら、2回も、3回も同じって感覚になるんだろうな。だったら、金儲けできる仕事をした方が得だって考えて応募するんだと思う。それだけ割り切ってくれれば、俺たちも使い勝手がいいので仕事を頼むようにはしている」この言葉にあるように、特殊詐欺には、道を外れた不良がやるというより、追い詰められた真面目な人間やおとなしい人間をだまして、徹底的に利用して捨てる仕組みがある。高額報酬に目がくらんで飛びついたとしても、その先に待っているのは真っ暗な悲劇だ。冒頭の教諭を見ればわかるだろう。本人の軽率な行動によって逮捕されただけでなく、家族を絶望に陥らせ、学校の小さな教え子たちにまで一生残る傷を負わせることになった。被害に遭った人々、そしてその家族については言うまでもない。そんな特殊詐欺は、コロナ禍によって応募してくる人が後を絶たないという。彼はこう語る。「コロナ禍になってから、20~30代の会社員とかが応募してくることが多くなった気がする。それまで若い女は借金があっても会社に黙って夜のバイトをするとかいう選択があったじゃん。けど、そういう仕事がコロナで減って、俺らみたいな仕事に飛びついてくることが多くなったみたい。年々警察の取り調べは厳しくなってるけど、俺らとしてはより優秀なヤツらを雇ってうまくやっていく感じになってる」優秀な人間ほど使い勝手がいい。その言葉に背筋が寒くなるが、実際にそういうタイプが標的になっているのだろう。くり返すが、特殊詐欺に加担したところで、最後に待っているのは破滅だ。自分は関係ないと思っている人こそ、そこに堕ちないためにも、特殊詐欺の構造や恐ろしさをしっかりと自覚するべきだろう。取材・文:石井光太77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『「鬼畜」の家ーーわが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『レンタルチャイルド』『近親殺人』『格差と分断の社会地図』などがある。
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最終更新:FRIDAY