Engadget Logo エンガジェット日本版 AirPods MaxがApple Musicのロスレス再生に対応できない理由
Apple Musicがロスレス音質での配信を発表したことは、その音質にかすかな不満を覚えていた音楽ファンを歓喜させました。これで6月からApple MusicユーザーはCDと同じ44.1kHz/16bitの音楽から、最高で192kHz/24bitのロスレスまたはハイレゾ音源を堪能することが可能になります。
ただしアップルは、48kHz/24bitを超える音源をロスレス再生するにはUSB-DACなどハイレゾ対応の再生環境が必要であることを説明しています。
一方アップルが明確に説明しなかったのは、既存のアップル製ワイヤレスヘッドホンやイヤホン、スピーカーなどがいずれもロスレスストリーミングの再生に対応しないということ。税込6万7980円のAirPods Maxを購入した音楽ファンのことを考えると、なんとも残念な気持ちになる話です。
CDに収録される音声データはリニアPCM方式で、アナログの音声をサンプリングレート44.1kHz、ビット深度(量子化ビット数)16bitでデジタル化しています。サンプリングレートは1秒間に音声を何度デジタルに変換するか、ビット深度は音の振幅(強弱)を何段階で認識するかを示す数値です。これらの数値が大きいほど、現実の音に近くデジタル化することが可能になります。
そしてハイレゾ音源は、このサンプリングレートとビット深度の数値をより高くすることで、デジタルデータとしてはCDよりも音を正確に再現できます(ただ、われわれ一般人がそれを認識できるかどうかは別の話)
アップルのワイヤレスヘッドホンやイヤホン、スピーカーはいずれもBluetoothを経由して音楽を伝送するため、音声データはコーデックによって伝送可能なビットレートに収まるようデータをそぎ落とさなければなりません。Bluetoothで使用されるコーデックはアップルが採用するAAC(Advanced Audio Coding)を含めいずれも非可逆圧縮方式であり、音質劣化は避けられません。Bluetoothで使われるにもかかわらず”ハイレゾ級”の音質を謳うソニーのLDACなども、やはり非可逆圧縮方式です。ロスレス再生ではありません。
ではAirPods MaxのLightning端子とハイレゾ再生機器を「Lightning - 3.5mmオーディオケーブル」で接続した場合はどうでしょうか。この場合も、アップルはロスレス再生はできないとしています。Lightning - 3.5mmオーディオケーブルの3.5mm端子に入ったアナログ音声はケーブル内でデジタル変換してLightning端子からAirPods Maxへ出力されます。このデジタルデータはAirPods Max内部で再びアナログ変換されてドライバーに送られ、音声として再生します。ちなみにLightning端子はアナログ音声信号を扱う設計ではありません。
ならば、ヘッドホンやイヤホンではなくHomePodのようなワイヤレススピーカーならどうでしょうか。記事執筆時点では、やはりHomePodもロスレスでの音楽再生はできないとアップルは説明しています。とはいえ、BluetoothでなくWiFiを使えば伝送速度の問題は実質的になくなるため、将来的にはWiFiスピーカー機能のアップデートによってアップルのロスレス方式であるALAC(Apple Lossless Audio Codec)に対応させることはできる可能性があります。ただ、それまではやはりアップルの言うとおり、iOSデバイスやMac、PCなどでUSB-DACなどハイレゾ再生対応を利用するしか、ハイレゾ音源を完全な格好で再生することはできなさそうです。
アップルはロスレス・ハイレゾでのストリーミングとともに、Dolby Atmosを採用した楽曲の配信も6月から開始すると発表しました。アップルとしては、よほど集中して聴いても違いを認識しにくいロスレスおよびハイレゾでのストリーミングよりも、誰が聴いても違いがわかる「空間オーディオ」方式のDolby Atmosのほうをより強くアピールしたいと考えているようです。
Dolby AtmosにはH1またはW1チップを搭載したAirPodsやBeatsブランドのヘッドホンが対応しており、最新のiPhoneやiPad、Macなど、もちろんHomePod、そしてApple TVも対応しています。ロスレスは録音された音をそのまま再現性するのに対して、空間オーディオは音の聞こえる方向や奥行き、ニュアンスをより直感的に感じ取れるようにして、あたかもそこにいるかのような”臨場感”を再現する技術です。われわれ一般人にとっても、おそらくロスレスやハイレゾストリーミングの音を聴くよりも、Atmosによる空間オーディオの臨場感の方が聴いたときのほうが驚きは大きいはずです。
まだまだDolby Atmosに対応する楽曲は少なく、提供開始当初は2000曲程度にとどまるとされます。とはいえアップルはドルビーラボラトリーズと協力してアーティスト、プロデューサー、エンジニアにこの空間オーディオフォーマットでの録音環境を提供するとしており、既存カタログのAtmos対応を進めるとともに、新作のAtmos対応版もリリースできるようにしていく考えです。
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