2020年、野村ケンジが注目した“ポタオデ”新製品はコレだ!
オーディオ&ビジュアルライターの野村ケンジ氏が注目した、2020年のポータブルオーディオ新製品
しかし、決して製品の登場が少なくなったというわけではありません。2020年の春ごろには発売延期される製品も多少ありましたが、その分、夏以降は例年以上にさまざまな製品が新登場しています。
そんな2020年のポータブルオーディオにおいて、最大の変化となったのがワイヤレスイヤホンの躍進です。これまで、Bluetoothタイプのワイヤレスイヤホンが急激に販売台数を伸ばしてきたのは確かですが、いよいよ、有線イヤホンに代わる存在にまでなってきたのです。
しかも、利便性が重視される一般向けの低価格モデルがワイヤレス、音質を最優先するマニア向けの高級モデルは有線モデルがメインになるという、なかなかに興味深い二極化状態だったりもします。
Bluetoothワイヤレスは音質も遅延もまだまだ発展途上にあるため、しばらくはこの二極化状態は続く(高級モデルのワイヤレス化はまだまだ時間がかかりそう)とは思われますが、エポックメイキングな製品が登場すると瞬く間に情勢が変わっていく業界だけあって、今後の状況変化にも注目しておきたいところです。
百花繚乱のノイキャン完全ワイヤレス。マイク性能に注力も
さて、2020年を代表するポータブル製品といえば、やはり完全ワイヤレスイヤホンでしょう。低価格化と同時に、アクティブノイズキャンセリング(ANC、以下NC)という新たな機能性にも注目が集まり、結果としてさまざまなメーカーから多数の新製品が登場しました。
特に、NC搭載の新製品は大いに好評を博しているようで、いくつかの売上ランキングで上位をキープしています。最も売れているのは皆さんご存じのApple「AirPods Pro」(2019年発売)。ソニー「WF-1000XM3」も2019年の発売以来、高い人気を保ち続けていますが、2020年はボーズ「QuietComfort Earbuds」や、Jabra「Elite 85t」、テクニクス「EAH-AZ70W」など、高性能なNC機能を持つ高級モデルに人気が集まっています。
その一方で、音質重視のマイルドノイキャンをうたうオーディオテクニカ「Sound Reality ATH-CKR70TW」やAVIOT「TE-D01m」、ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 2」などにも注目が集まっています。実際、イヤホンのNC機能はまだまだ発展途上といえる状況のため、音質劣化を最低限に留めているマイルドNC製品も大いに魅力的。このあたりは、使用するシチュエーションにもよりますが、現状では高性能なNC機能が必要な場合はヘッドホンタイプの製品をチョイスするほうが良さそうです。
また、巣ごもり需要に対応してか、完全ワイヤレスイヤホンのマイク性能に注力するメーカーも増えてきました。特にテクニクス「EAH-AZ70W」やオーディオテクニカ「ATH-CKR70TW」は、高品質で聞き取りやすい音声を拾い上げてくれるため、Web会議などでも充分役立ってくれます。マイク性能も重要視したいということは、まずこの2つから試してみてください。
1万円以下の完全ワイヤレス続々、音や接続性もUP
低価格な完全ワイヤレスイヤホンについては、中国ブランドの勢力が強いのは相変わらずですが、AnkerやTaoTronics、MPOW(エムパウ)など、しっかりした体制で日本国内での展開を行うメーカーが増えてきました。高級モデルとの歴然とした差はありますが、音質や接続性などもずいぶん良くなってきています。
TaoTronics「SoundLiberty 97」など、3,000円台で買える製品もありますので、完全ワイヤレスイヤホンを試してみたいという人にはこういった製品も候補としてオススメです。そうそう、MPOWにはNC機能を持ちながら実売8,000円台の「X3 ANC」というイヤホンがラインナップされています。NC機能は欲しいけれど高額な製品には手が出ない、という人にはうれしい存在だといえます。
有線イヤホンも注目、シュア「AONICシリーズ」が魅力的
有線イヤホンも魅力的な製品が次々登場しています。イヤホンシェアの主役をワイヤレスに譲ったものの、デジタルシステムやバッテリーを小スペースに無理矢理押し込まなければならないワイヤレスイヤホンに対して、音質面での優位性は変わらず、コストパフォーマンス的にも良好な製品が多くなっています。
2020年に発売された有線イヤホンのなかでも、最大の注目株といえるのがシュアのAONICシリーズ(有線は「AONIC 3」「AONIC 4」「AONIC 5」の3モデル)です。ステージモニターなどプロ用途がメインだった従来のSEシリーズに対して、AONICシリーズはコンシューマーメインの製品に仕上がっていて、シュア初のハイブリッドドライバー構成をもつ「AONIC 4」(実売価格:税込約36,000円)が登場するなど、なかなか魅力的なラインアップとなっています。決して安価な製品ではないですが、音質の基準、リファレンスモデルとして所有する価値のある製品だと思います。
さらには、1万円クラスの新製品もオススメです。final「A3000」「A4000」はダイレクト感の高い良質なサウンドを楽しませてくれますし、TFZ「LIVE 3」はメリハリがよく伸びやかなサウンドを楽しませてくれます。また、中国の新興ブランド水月雨 (MOONDROP)も注目株で、エントリーモデル「SSR (Super Starship Reference)」は実売5,000円程度ながら望外といえる豊かな表現のサウンドを楽しめます。ワイヤレスに対して利便性は劣りますが、DAPと組み合わせ室内メインで楽しむなど、活用方法を工夫しつつ、楽しんでみてはいかがでしょうか?
実は活況だったポータブルプレーヤー。個性派モデルが各社から
意外に思われるかもしれませんが、ポータブルDAP(デジタルオーディオプレーヤー)もなかなか活況な年になりました。ワイヤレスイヤホンが主流となり、スマートフォンの標準音楽プレーヤーがハイレゾ対応になるなど、強い逆風が吹くDAPですが、そういった逆境に対応するためか、ユニークな製品が次々と登場しています。
たとえば、DAPメーカーの雄のひとつであるAstell&Kernからは、AKM(旭化成エレクトロニクス)とESSのDACを内蔵し、異なるサウンドキャラクターを使い分けて楽しめる「A&futura SE200」や、同ブランド初の4.4mmバランス端子を搭載した「KANN ALPHA」など、意欲的なコンセプトを持つ製品が登場。
中国勢では、ストリーミング再生用に通信用SIMスロットを搭載したHiBy「R8 pro」やヘッドホン端子が交換できるShanling「M8」、DAPで初めてR2R(ラダー型)ディスクリートDACを搭載したLUXURY&PRECISION「P6」など、音質追求はもとより、ユニークな構成を持つ製品も次々と誕生しています。
HiByやHIDIZS、Shanlingなどが得意とする小型軽量のエントリーモデルも、音質が良くなっているうえに対応するハイレゾ音源スペックも向上するなど、「これひとつで充分なのでは!?」と思えるくらい実力が高くなってきています。低価格モデルも高級モデルも、最新DAPは大いに魅力的な存在といえるでしょう。
そのほかにも、USB-C端子で接続するインラインタイプのヘッドホンアンプやBluetoothレシーバーなど、スマートフォン用のオーディオアクセサリーが充実してきました。ぜひ、今後のポータブルオーディオ製品にも大いに注目していただけたらと思います。
野村ケンジ
のむらけんじポータブルオーディオやホームオーディオなどのAV機器をメインに、専門誌やモノ誌、WEB媒体などで幅広く活躍。特にヘッドホン&イヤホンに関しては、年間300以上の製品を10年以上にわたって試聴し続けるなど、深い造詣を持つ。また、TBSテレビ「開運音楽堂」やレインボータウンFM「みケらじ!」にレギュラー出演するなど、幅広いメディアでの活動を行っている。
この著者の記事一覧はこちら