さすがのサウンド! ゼンハイザーの新フラッグシップIE 600が登場(アスキー)
ゼンハイザージャパンは3月3日、フラッグシップイヤホン「IE 600」を発表した。価格はオープンプライス。店頭での販売価格は10万円弱になる見込み。発売は3月8日を予定している。【もっと写真を見る】
写真:アスキー
ゼンハイザージャパンは3月3日、フラッグシップイヤホン「IE 600」を発表した。価格はオープンプライス。店頭での販売価格は10万円弱になる見込み。発売は3月8日を予定している。高性能な自社開発ドライバーを採用、アコースティックにこだわりゼンハイザーの有線イヤホンには現状、フラッグシップの「IE 900」と「IE 300」の2製品がある。IE 900は実売18万円近い超ハイエンド機。IE 300も実売4万円超の高級機ではあるが、価格にかなり開きがある。IE 600は両者の間を埋めつつ、IE 900にはない新機軸も取り込んでいる。なかなか力の入った製品なのだ。その特徴はやはりアコースティックだ。ゼンハイザーはドライバーの自社開発もできるメーカーで、IEシリーズではこれまでも自社工場で生産した直径7mmのドライバー(高性能TrueResponseトランスデューサー)を採用していたが、ここは本機も同様だ。メリットは歪みの少なさで、左右の位相差が耳で感じられないほど高精度に揃っているつくりの良さ、各周波数帯域のつながりの良さなどが特徴だ。また、IE 900に取り入れた振動板(メンブレンフォイル)が重くなることを嫌ってコーティングを敢えて施さなかったり、形状も非常にシンプルにするといったこだわりがある。様々な試行錯誤の結果、ノーコーティングでプレーンな形状が最も良いという共通思想を持って開発されたドライバーなのだ。ただ、イヤホンの音を決めるのはドライバーだけではない。ゼンハイザー独自の試みとして注力しているのが「アコースティックバックボリューム」機構と「デュアルレゾネーターチャンバー」機構の2つだ。アコースティックバックボリューム機構は、ハウジング内の空気量と風の方向を調整するためドライバーの後方に設けられたエアスペースだ。ドライバーをスムーズに動かすことによって、低域と中域の分離感をよくし、不要な共振を取り除く効果がある。ただ、ここのサイズをどのぐらいとるかが重要で、大きくすると量感が豊かになるが音圧は下がり、小さくすると量感は減るが音圧は上がるといった傾向あるという。このバランスを決め、最適なチューニングにするのがエンジニアの腕の見せ所となり。ゼンハイザー社内ではこの音決めの担当者を実際シェフと呼んでいるそうだが、文字通りシェフのレシピと言えるノウハウである。後述するように、IE 600はIE 900ともまた異なる音質傾向を狙っている。一方、デュアルレゾネーターチャンバーは、IE 800シリーズで過去搭載していたD2CA(Damped 2 chamber absorber)を採用したものとなる。IE 900では3R(3 Resonator chanber)として、高域の周波数特性を整えるために3つの部屋を用意していたのに対して、IE 600では2つになる。効果としては子音などに相当する5~10kHzの刺さりを低減。耳障りでなく、伸びのあるボーカルの再現に寄与するそうだ。ゼンハイザーとしてはドライバーという部品単体ではなく、こうした一連の技術を組み合わせた結果(つまりこれら全体がドライバーである)と考えているようだ。さらに直径7mmのドライバーは、小型なハウジングに収めることができ、装着感にも貢献するとしている。IE 600のハウジングは非常に小さく重量も片側6gと軽量だ。さらに「アモルファスジルコニウム」(ドイツへレウス社のAMLOY-ZR01)という素材をラインアップを通じて初めて採用している。一般的な鉄に比べて3倍の強度があり、頑丈さと柔軟性を両立し、腐食しにくく、低温にも強いというメリットを持つ。医療や宇宙開発でも注目を浴びており、NASAの火星探査機のドリルにも使用されている素材だという。IE 600のハウジングは粉末の素材を用い、3Dプリンターで造形したものになっている。ケーブルはプレーヤー側が3.5mm(アンバランス)または4.4mm(バランス)の2種類を用意。パラアラミド繊維のシースで強化しており、8000回の折り曲げに耐える。コネクターはMMCX仕様だが、端子周辺部の形状が異なる独自仕様(Fidelity Plus MMCX)となっている。ここはIE 300やIE 900と同様だ。安定感と耐久性を維持するためのものだが、一部のケーブルが利用できない可能性がある。イヤーチップはシリコンタイプと低反発タイプをそれぞれ3サイズ同梱している。忠実再現のIE 900とボーカルの近さを感じるIE 600IE 600に興味を持つ人はIE 900との違いが気になるかもしれない。ゼンハイザージャパンの説明によると、IE 900は全帯域で原音に忠実な再現を目指しているのに対して、IE 600はボーカルに臨場感が出てより近く聞こえる点を重視しているのだという。例えばバックボリューム機構に関しては、IE 900よりは小さくしているため、ボーカルなどの中域や低域に音圧感が出て、より臨場感を感じるサウンドになるという。このあたりは単純に価格で上位/下位を決めるのではなく、シリーズの中でキャラクターを出して差別化していく意図が入っているのが感じ取れる。レゾネーターチャンバーの数によってグラフ上、高域の特性に差が出ているが、補正がかかる帯域はともに広く取られており、伸びに関しては差がないとする。IE 600はIE 900と同じ基本思想で作られているが、中域が前に出てきらびやかなボーカルだったり、安定感のある低域だったりを感じられる音作りなのだという。ボーカル曲やポップスなどを楽しむ際にはよりよい面もあるので、個性の違いで選びたいところだ。周波数帯域は4Hz~46kHzと非常に広く、感度は118dB、インピーダンスは18Ω、THD(歪み)は0.06%以下(94dB@1kHz)と低く抑えられている。なお、ゼンハイザーのフラッグシップモデルはこれまでドイツの自社工場での生産が基本だったが、SONOVAへの事業譲渡後、今後はアイルランドの自社工場に集約していく方針だそうで、本機もアイルランド製の製品となっている。ただし製造方法などは同様で、品質に差は出ないという。コンパクトで質感の高い本体、音は聴くほど良さに気づく実機を試すことができた。まず印象的なのはハウジングの素材。表面は粗く独特の質感がある。観る角度で表情が変わるのも面白い。一方でサイズ的には非常に小さく、耳穴の前のくぼみにすっぽりと収まる。耳の外側に出っ張る部分がほぼないので、装着したまま横向きで寝っ転がっても違和感がない。最近は完全ワイヤレスイヤホンを使う機会が多かったので、有線シングルドライバーの製品特有のコンパクトさはなかなか新鮮だった。寝ホン的な利用もイケそうだ。音についてはさすがである。くせがなく分離感も優れ、ワイドレンジで、低域もしっかりしている。ただ、傾向としては高域に特徴のあるゼンハイザーのヘッドホンとはかなり異なる印象。他社製品含め、ハイエンド機特有の玄人好みのチューニングに感じる面も。言い換えると目立った主張がないニュートラルな音という印象だ。IE 900とのキャラクターの違いは上のグラフの解説で少し触れた。「きらびやか」という言葉もあったが、実際に聞くとブライトでむしろナチュラルな印象。キラキラした高域やズシンとした低域といった分かりやすい特徴は持たず、音がごく自然に、ある意味、当たり前にあるものとして聴こえてくる。結果として、最初に聞いただけでは、特徴を感じにくいと思う人がいるかもしれないが、だんだん耳が慣れてくると、音楽のニュアンスがこれまでよりも少し伝わりやすくなったと感じたり、長時間聴いていた際の疲れにくさを感じたりする。また、ふと別の機種に変えた際、音質がかなり変化していることに気づくこともある。こうしたことを繰り返すうちに、ああこれはやはりハイエンドイヤホンの一角を担う、高いポテンシャルを持つ製品なのだなぁという実感がわいてくるのである。派手になりすぎないこともまた魅力の機種なのだと思う。ポータブルの音楽再生はストリーミングとワイヤレスが主流になる中、有線のハイエンドイヤホンに興味を持つのはかなりのこだわりを持った人だと思う。聴けば聞くほど、その性能の高さや音楽のニュアンスに気付けるというのは、自分の耳も一緒に育っていくような感覚が味わえて面白いかもしれない。4.4mmのバランス出力用端子を持った上質なプレーヤーと組み合わせたい。音質は聴けば聞くほどの発見がある。機会があれば、より詳しく記事にしていきたいと思う。文● ASCII