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フェイクニュースとソーシャルメディア
筆者が明らかなフェイクニュースに触れたのは2016年11月5日のことだ。前回2016年の大統領選挙でドナルド・トランプとヒラリー・クリントンが競い合っている中、投票の3日前に「ヒラリー・クリントンを調査中のFBIエージェントが自殺」という記事が「Denver Guardian」で公開された。それを妻の高校時代のトランプ支持者・保守派キリスト教徒の友達がFacebook上で共有していたのを見た時である。
この記事の信憑性はどうなのかと考えながら、「Denver Guardian」の他の記事や「About Us(このサイトについて)」のリンクをクリックすると、そこには「ページが存在しない」というメッセージが出るだけで何も表示されない。そして少し検索して調べると新聞社サイトに見せかけたドメインのDenverGuardian.comはまったくのフェイクニュースサイトであることが分かった。
実際に存在する新聞社The Denver Postは、このドメインが2016年7月に登録されたばかりのもので、記事がフェイクであることを同じ日に記事にしている。後日、このドメインはUSAToday.comなど他の主要ニュースサイトのドメインに似せたフェイクニュースサイトとして、Disinfomediaという企業が運営していることが判明した。20-25人のライターがフェイクニュースを書いており、前述の記事はFacebookで50万回以上共有され、トランプサポーターのフォーラムなども含めて160万回閲覧されていると公共ラジオNPRが伝えた。
これ以前からも、保守派サイト「Fox News」や極右ニュースサイト「Breitbart」がフェイクニュースを流すことは多くあった(Breitbartは後にトランプ前大統領の選挙の主席戦略官を務めるSteve Bannonが会長で、ヘッジファンドでビリオネアになったMercer親子が投資している)。
同じくSteve Bannonが役員を務めるイギリスの政治心理作戦コンサルティング企業Cambridge Analyticaが英ケンブリッジ大学のデータサイエンティストを雇い、調査と偽って政治広告心理キャンペーンなどが行われていることも大きく報道されている。
その手法はFacebookの8000万ユーザーのアカウントデータから心理プロファイルを集め、それを利用して有権者を恐れさせるようなフェイクニュースコンテンツを作成し、FacebookやTwitterで拡散するといったものだ。フェイクニュースやそれを広げるFacebook、Twitterなどのソーシャルメディアが民主主義を壊していくということも議論されてきた。
そしてトランプ大統領就任以降の4年、このフェイクニュースの傾向はさらに強まっている。彼自身が多くの保守派サイト、極右インフルエンサーからのフェイクニュースや嘘のコメントを共有したり、「新型コロナウイルスがすぐに無くなる」という発言をしたり、移民や人種差別に反対するデモなどに関して期間中3万以上の嘘をつくなど、フェイクニュースを積極的に広めてきた。
また、保守派フォーラムやソーシャルグループではビル・ゲイツ氏が「コロナワクチンにトラッキングナノデバイスを入れている」、民主党やハリウッド関係者が「子供の血を吸っている」などという陰謀論を信じるQAnon支持者がさまざまななフェイクニュースや極右インフルエンサーコメントを共有するようになっている。
そしてトランプ前大統領は2020年の選挙戦後、多数の選挙詐欺がありバイデンは勝利していないという、またしても嘘の主張を行った。共和党を含める各州の州務長官が承認した後も結果を受け入れず、トランプ陣営は60ほどの裁判を起こしたが、大規模な選挙不正や詐欺があった証拠をまったく示すことができず、提出された証拠・証人もまったく信頼できないものであり、ほとんどの主張は敗訴か棄却が決まっている。
だが、今でもトランプ前大統領や共和党支持者は、まったくといってよいほどバイデンの勝利を認めていない。そして、米議会でのデモに集まることを奨励するメッセージがトランプ前大統領からあり、これが米議会襲撃に繋がることになる。