スマホで操作できるドローンで架橋の点検業務を効率化、働き方改革につなげる -ジャパン・インフラ・ウェイマーク 代表取締役社長 柴田巧氏 インタビュー
公共インフラの老朽化が進む中、そのインフラを維持する技術者は減少傾向にあるため、効率的なインフラのメンテナンスが課題となっている。
一方で、ドローンは各種点検業務などにも活用の幅が広がっており、作業従事者の安全確保と時間短縮につながるソリューションとして注目されている。
株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク(以下、JIW)は橋梁点検作業に特化したドローンを開発し、そのドローンを用いた橋梁点検業務をトータルサービスとして提供している。
今回はドローンの開発の背景や新しい技術を実用化させるに至った経緯を、JIW 代表取締役社長 柴田巧氏に伺った。(聞き手、IoTNEWS代表 小泉耕二)
目次
ドローンによる点検業務をトータルでサポートする
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉):どんな事業をされているのかお教えください。
JIW 代表取締役社長 柴田巧氏(以下、柴田): JIWではトータルメンテナンスサービスという形で、ドローンをつかったインフラ点検を行っています。
また、それ以外にもドローンに関わる教育研修・ドローンレンタルなどのサポートサービスも行っております。
設立は昨年2019年の4月で、社員数も現在39名(2020年11月現在)と急拡大の会社となっています。実績として、昨年度は1年間で全国1500設備の点検業務を行いました。
サービスは3つにわかれており、ドローンパイロットサービス、つまり空撮アウトソーシングサービスのDaaS(Drone as a Service[ドローンアズアサービス])、クラウドサービス(SaaS)、そしてAIaaSです。
AIaaSはAIとIaaS(インスペクション[建物状況調査]アズアサービス)を掛け合わせた言葉になります。
サービスの基本はターンキーで、点検の報告書を作成するところまで一貫して対応できることが強みの会社です。
本来は点検業務をトータルで提供する、点検業務が主軸の会社ですが、お客様の中には空撮だけ依頼したい、クラウドサービスだけ利用したいという方もいらっしゃいますので、一部分だけ提供するという対応もしております。
弊社の技術は国土交通省の点検支援技術性能カタログに掲載されており、橋の下の入り組んだ桁の中に入って行って裏や内部を撮影できるドローンとして指定されています。
弊社のドローンを使ったシステムは、国交省の建設現場の生産性向上にむけた新基準「i-Construction」を推進する技術としてとして採択されております。こうした中で、国の支援をいただき、ニーズを伺いながらシステムの高度化開発をしており、実績としては、鉄道会社様や通信会社様ほかさまざまなインフラ事業者が保有する橋・鉄塔の点検業務を行ってきました。
また、弊社は「支える人を、支えたい」というコンセプトで会社を立ち上げております。地元で点検業務をされている企業に協力していただき、インフラ事業者などからのドローン点検業務をその協力会社と連携して実施しています。
JIWが生み出した点検ドローンや手続きの手法が日本全体に広まって浸透していくことで、地域差なく、日本全国で生産性の高い維持管理が出来るようになることを目標としています。
カメラで取得した画像からリアルタイムで周囲の状況を認識するドローン
柴田:JIWがドローン点検で扱うドローンで注目されているのは「Skydio R2 for Japanese Inspection【通称J2】(以下、J2)」という機体で点検用途に改良された機体となっています。
飛行性能としては、GPSの届かない橋の下での飛行が出来る他、飛行しながら障害物を認識して自動で回避するため、入り組んだ桁の中も飛行が可能です。
リアルタイムで周囲の状況を認識しているため、手のひらから離発着ができます。これは手を障害物として認識するのではなく、離発着可能な場所として認識するためです。また搭載されている4Kカメラでかなり近接での撮影が出来るため、細かな亀裂やひび割れまで撮影することが出来ます。
J2が障害物を認識しながら飛ぶことが出来るのは、周囲の状況をカメラで撮影しながら常にセンシングしているためです。
機体の上下についている6つのカメラで撮影した写真に対しドローンに搭載されたGPUでリアルタイムに点群を生成しています。ドローン本体はこれらを確認し、周囲に障害物がないということを認識しながら飛行します。
従来のドローンはコンパスや方位磁針が搭載されていましたが、J2はコンパスなどを使用せず、ドローンから送られてくる映像を見ながらどこに進むか確認し、スマホで操作します。
実際にどのように橋を点検しているかというと、ゴミがたまり劣化しやすいフランジ(鉄骨の出っ張った箇所、縁)の上の部分や、桁の中、床板の確認、ボルトの確認といった箇所までドローンを飛ばし点検しています。これまで、こういった錆びやすい部分は橋梁点検車やロープアクセスにより点検を行っていましたが、ドローンを使うことでコストを掛けずにかつ安全に確認が可能です。
小泉:かなり狭いところも飛行できるのですね。
柴田:そうなんです。そして、このドローンはスマホでの操作が可能です。ドローンは設定された距離で止まり、間に障害物があったら避けて対象物まで近づくことが出来ます。これらはドローンを一般の人たちが操作できるものにしたという大きな技術革新だと思っています。
従来のドローンを使った点検は、ドローンの操縦技術を持ったドローンパイロットと安全保安員、点検業務の資格を持つ点検員の3名で現場に向かい実施していました。
その点、J2は点検員自らドローンを簡単に操作することができるため、生産性は高くなると期待されています。
ドローンというと墜落してクラッシュするというイメージがあるかと思いますが、J2は障害物センサーにより衝突のリスクを低減しながら飛行できます。
小泉:ドローンは思い通りに操作できないというイメージがありますね。この方式にしようとしたきっかけがあったのでしょうか。
柴田:GPSが取得できない環境でやらなければならないという案件がありまして、そういった環境でも飛ばせるドローンを考える必要がありました。
最初はLiDARを積むということも考えましたが、値段が高くなってしまうので搭載できませんでした。
小泉:充電もかなりないと難しいですよね。
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柴田:そうですね、機体が重くもなりますし現実的ではありませんでした。そこで、軽くて金額も安いカメラを搭載してビジュアルSLAMと言われる技術で、荒いけれども点群を生成できるような方式を検討していきました。
小泉:風はどのくらいまで対応出来るのでしょうか。
柴田:スペック上では11m/sの風まで耐えることが出来るようになっています。ですが、狭いところでは突風などが起きるので5m/sまでとしています。
小泉:機体のサイズとしてはDJIのファントムなどと同じくらいの大きさなのでしょうか。
柴田:そうですね、プロペラ部を含めず25センチほどになります。点検員は背中のリュックに入れて点検の現場に向かっています。
小泉:気軽に持ち運びして点検できるということですね。ドローンの開発自体はどのくらいかかったのでしょうか。
柴田:初号機から考えれば3年ほどかかりました。
開発当時はビジュアルSLAMの技術をリアルタイムに360度処理をするというところが難しく、出来ていませんでした。国内外の企業と開発を進め最終的にはアメリカのベンチャー企業スカイディオ社と今回ご紹介した機体を開発し、こうして安全に点検ができるところまで来ました。
ドローンのシェアリングサービス
柴田:また弊社は現在インフラ設備を持っている人に対し、ドローンをシェアして必要な時だけ使えるような、SDP(シェアリングドローンプラットフォーム)を構想中です。
インフラ点検でドローンのシェアリングが可能になれば、物流や輸送へのドローン活用にもつなげていけると考えています。
当社の出資会社でもあるNTTグループは、約1万のビルを所有しています。それらを活用し、シャリングドローンプラットフォームとなるドローンの基地を開発しようとしています。近いうちにインフラ点検だけでなく様々な事業者にご利用いただけるような環境を整えていく予定です。
小泉:ドローン本体では中国製には勝てないという話が多かったため、ドローンの開発者は無視界飛行を目指して航空管制のようなソフトウェアを開発しようとする人が多いと思います。
しかし、御社のドローンのように姿勢制御がしっかり出来るということが担保されていれば、使い方はもっと広がるということですよね。
柴田:コンシューマーと違いエンタープライズは要件が尖っているので、まだまだ新しい機体が出てくる余地は十分にあると考えています。私たちは『橋の下のGPSが取得できない場所で飛ばす』という部分だけに注目しましたが、夜やとても狭い所、埃が多い場所など、様々な条件が挙げられます。
こういったエンタープライズの要件に合致する、ニッチな部分に特化した機体を真剣に作れば多くの顧客から支持される可能性は十分にあると思います。
小泉:今回お話をお伺いしてその可能性はとても感じました。
ドローン活用で発生する課題を取り除き、利用しやすい環境を整える
小泉:ドローンの操作イメージはついたのですが、御社の点検業務のサポートサービスとしてはどういったことを提供されているのでしょうか。
柴田:点検業務は外業と内業の二つに分かれています。現場作業に当たる外業で弊社サービスをご利用いただくと、約6割のコスト削減につながります。
ドローンが点検に採用されるには、まず受注者である建設コンサルタントがコストや性能などを比較し、点検技術を選定して発注者へ提案、インフラを持つ発注者はその提案から協議して認めるという流れになっています。
技術選定をするためには安全面や品質面など様々な観点で性能を確かめる必要があります。
そこで橋梁点検については国土交通省が点検支援技術性能カタログというものを作成していまして、試験・評価を経て維持管理に効果があると期待される技術および提供する会社を掲載しています。JIWおよびJ2はその性能カタログに、橋の下で、桁の内部まで撮影できる技術として記載されています。
加えて、ドローンの点検に関してはまだ新しい技術のため、最適な業務プロセスや必要な稼働や費用に係る知見が蓄積していなかったため、弊社はお客様とのPoCを通じて必要な検討を行ってきました。
また、点検成果物についても、現在利用されている点検調書に、ドローンで調査を行い取得した画像をどのようにまとめていけばよいかという検討も実施し、効率的で見やすい成果物ができたと思います。
ロボティクス化を進め、働き方を変える
小泉:未来に向かって、他に展開していきたい分野はあるのでしょうか。
柴田:もし外業の自動化、AIによる内業の自動化が行われ、点検のオートメーション化が実現出来たならば、次は川下に当たる「診断」や「予防保全」、「修繕」といった領域にロボティクスの範囲を広げていき、現場の負担を更に減らしていきたいと考えています。
しかし、しばらくはこのまま点検業務に注力していきたいと考えています。日本には現在73万橋あると言われていますが、これがどれだけ多いかというと国土として日本の25倍も広いアメリカは60万橋、同じほどの中国でも80万橋です。まだまだやるべきことが沢山あります。
小泉:ポテンシャルしかない業界ですね。今後さらにデータを集めていくこと、画像技術の向上でできることも変わっていくのだと思います。こういったお話を聞いていると、いろんなことがどんどん自動化出来ていくという感じがします。
柴田:いつか働き方改革をしたいと考えています。私は、ロボティクス化を進めることで働き方改革を進め、若手が志す業界にしたいと思っています。
小泉:現場のノウハウはどういうところに必要なのでしょうか。
柴田:点検時に確認するべき部位、また部位に対して変状・変化、錆びやクラックがどのくらいまで進行しているのかといったレベル分けが必要です。そしてそれらをどのように、決められた様式にまとめることが最適なのかというノウハウは点検会社はじめこれまで点検業務に携わられている方々に蓄積されています。
弊社はそういったノウハウを持つ方々にご参画いただき、業務を推進しています。またAI学習に必要な基準づくりや良し悪しの判断をすることで新技術開発にも取り組んでいます。
いつかそうやって生まれた技術やノウハウが、現場を支える全ての会社に行き渡り、日本全体で効率的な維持管理を実現して、安心・安全な社会づくりができればと思います。
小泉:元々人がやっていた業務ですからね。そういったところにデジタル技術が入っていくことによって、働き方も変化するでしょうし、一気に自動化が進むという可能性が見えてきますね。
柴田:ぜひ実現したいと思っています。
小泉:本日はありがとうございました。
戸田麻美現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。