ニコン「Z 9」レビュー後編 一眼レフの魂を内に秘める珠玉のミラーレス機(マイナビニュース)
ニコンが2021年12月下旬に販売を開始したフルサイズミラーレス「Z 9」
これまでにない強烈な品薄ぶりが話題になっているニコンのフルサイズミラーレス「Z 9」。レンズ交換式カメラのフラッグシップ機で重要となる操作性やファインダー、さらにメカシャッターを搭載せず電子シャッターでの撮影となるZ 9で気になるローリングシャッターゆがみの程度など、気になる部分を落合カメラマンにさらに深掘りしてもらいました。【画像】ヘリコプターを撮影しても、ローターはこのように真っ直ぐピタリ。電子シャッター特有のゆがみは発生していないスペックだけでは分からないEVFの巧みな仕上がりメカシャターを搭載しないという、このクラスのミラーレス機としてはチャレンジングな作りを採用していながら、一方ではその使い心地に「古き良きフラッグシップ一眼レフ」に似たテイストを確かに感じるという、不思議なバランスがニコン「Z 9」には備わっている。何がそうさせているのか?デカくて重いから?う、うーん、それもないとはいわないけれど…。まず、各種動作と操作感に備わる機械モノとしての精密感が現行のミラーレス機としては随一だ。デバイスの塊と化しているデジカメには希有な「そうそう、カメラって機械(だったはず)なんだよね」と思い起こさせる作りがZ 9には備わっている。これは、ボディの骨格、および重量バランスからくる手応えがそう感じさせているのかも?とにかく、体幹がしっかりしている。もうひとつは、ファインダーのデキの良さ。「EVFとして良くできている」の領域をはるかに超え、まさか「写真機のファインダーとして良くできている」と言わしめるほどの仕上がりを見せてくるとは思わなかった。しかし、よくよく考えてみれば予兆はあったともいえる。「せっかくお目見えしたけれど、他社との比較ではまだまだだねぇ…」なんてことをいわれてしまったZの初代、つまり「Z 6」や「Z 7」も、搭載しているEVFが見せることになった出色のクオリティには誰もが賛辞を贈ることになっていたのだ。「こりゃスゲー。サイコーのEVFだ」と。ぶっちゃけ、それはパナソニック「S1」シリーズの登場であっけなく力を失うことになってしまった“ひとしきりの魅力”ではあったのだが、単体で見ればその実力、未だ第一線級。そして、Zシリーズ初のフラッグシップ機を標榜するZ 9にとっては、Z 6やZ 7以上のクオリティをEVFに与えることは基本のキ、大前提であったことは想像に難くない。光学ファインダーと見まがうほどの“見え”の良さは、明るいところをキッチリ明るく見せることにこだわった(のであろう)作り込みの恩恵だろうか。夜間など暗所における大きなマイナス補正にもちゃんと追随する明るさ(暗さ)再現でも群を抜く印象だ。不思議なのは、従来とは次元が違うようにさえ思えるEVFなのに、EVFとしての表だったスペックがZ 6、Z 7と変わらないこと。最もシンプルな指標となるドット数はZ 6、Z 7と同じ約369万ドットなのである(パネルのサイズも0.5型で同一)。参考までに、これまた驚異の“見え”を有するソニー「α7S III」のEVFは、934万7184ドットの超ハイスペックを誇る。しかし、「リアルな見え方」を重視するならば、何故かZ 9の方が印象が良かったりするからこれまた不思議。α7S IIIのEVFは、高精細な画像データを8Kのモニターで見ている時のような、とことんシャープな、でもどこかヌルッとしている感じの描画であるのに対し、Z 9のファインダー像には“化学調味料的な味付け”を感じさせないリアルさがある。Z 9最大の魅力と強み、ここに極まれり。「写真機」に対するニコンの矜持と底力が言葉少なに滲み出ているのは、まさにここだろう。他社のカメラとは違った高感度画質の味付けZ 9を使い始めて最初に意外な思いを抱いたのは、ISOオートで制御される上限感度の初期設定(ISO25600)だった。これは、ニコン自身がさりげなく推奨している常用感度の上限がISO25600であることの表れだ。個人的には、何の疑いもなくISO51200レベルであろうと思い込んでいたのでちょっとビックリ。そりゃ、まぁ、有効画素数45MPの高画素機ではあるので、高感度番長ではないところに文句はないのだが…。実際にISO25600の画を見ると、なるほどこれが上限であることにはすんなり納得の仕上がりではある。好みによっては、キヤノン「EOS R5」やソニー「α7R III」の方が「超高感度画質はいいんじゃない?」との判断を下すこともありそうだ。つまり、Z 9の超高感度画質に飛び抜けたモノはないということになる。高感度ノイズの処理が、そもそも「等倍検証」を相手にしてないというか、鑑賞サイズにおいて最適な印象を得られるようにコントロールされているようにも感じるところがユニークだ。一方、カメラ内JPEGとRAWを処理してのJPEGに仕上がり差(ノイズ感の違い)がないところには好印象。ここはソニー陣営が苦手としている(?)ところで、ソニーの場合カメラが生成するJPEGなみの超高感度画質をRAWから得るのがけっこう難しい(個人的な印象です)。結果、どうしてもRAWで撮るのを躊躇することになるのだが、ニコンには以前からそれがなく、その“安心感”はZ 9にもしっかり引き継がれている。さらに、Z 9で撮ったさまざまな写真を見続けるうち、超高感度画質に対する一種ネガティブな思いがどんどん薄れていったのも「Z 9のナゾ」のひとつ。画像検証の素材ではなく、徹頭徹尾“写真”であり続けることを目指した(ようにも思える)画作りの妙が、知らぬ間に我が儘な我が身にも染み込んでいたのかもしれない。Z 9の画作りには、教わることが多そうな気がする。メカシャッターを搭載しないことを知ったとき真っ先に気になったのは、いわゆる「電子シャッターゆがみ」がどこまで抑えられているかだったのだが、実際に使ってみたらここでもビックリ。並みの動体を撮っている限り、当該の「ゆがみ」に悩まされることは皆無だ。これはスゴい。ニコンが自信を持って「メカシャッター非搭載」を決断したことがハッキリ分かる仕上がりだ。ファンの期待に応えたZ 9、ファンが期待する次の展開ニコンZの第二章を牽引するにふさわしい完成度の高さをZ 9はちゃんと有していた。よもや、中途半端なモノは出せない状況であることは明白で、だからこそそれは当然の流れではあるものの、「もう、追いついていないなんて言わせない!」…そんな中の人の声が聞こえてきそうな、自信に満ちあふれるカメラになっている点には正直、胸をなで下ろす思いだ。Z 9を必要とする人は、躊躇なくZ 9手に入れて構わないと思う。後悔はしないはずだ。とか何とかいいながら、個人的には「F5とF100」や「D3とD700」などに倣う、Zならではの“新たなゴールデンコンビ”の誕生、すなわち「もうチョイ小さなデキるヤツ」の登場に対する期待感もチラホラ…いや、ギンギンだ。Z 9のテイストを引き継ぎつつの小型化には、“動力性能”に見合う電源の確保がネックになりそうだが、ゆがまぬ電子シャッターならば秒間コマ速に贅沢は申しません。きっとニコンはやってくれるハズ!いや、でも、とりあえずはムリをしないで立て直しを図って欲しいかな。「ニコンらしいニコンのカメラ」って、やっぱりこの世になくてはならぬものなのだから。 落合憲弘おちあいのりひろ「○○のテーマで原稿の依頼が来たんだよねぇ~」「今度○○社にインタビューにいくからさ……」「やっぱり自分で所有して使ってみないとダメっしょ!」などなどなど、新たなカメラやレンズを購入するための自分に対するイイワケを並べ続けて幾星霜。ふと、自分に騙されやすくなっている自分に気づくが、それも一興とばかりに今日も騙されたフリを続ける牡牛座のB型。2021年カメラグランプリ外部選考委員。
落合憲弘