NTT東日本のアクセラレータ「LIGHTnIC(ライトニック)」が公募初バッチのデモデイを開催、スタートアップ14社が協業プランを披露
LIGHTnIC(ライトニック)は NTT 東日本が運営するスタートアップアクセラレータだ。当初、NTT 東日本社内の有志によってサイドプロジェクトとして立ち上がったプログラムだが、第3期となった今バッチからは事務局と専任担当が設置され、初めて一般からスタートアップが公募で集められることとなった。今バッチにはスタートアップ100社がエントリ、うち採択された14社が4ヶ月間(2019年9月〜12月)にわたり協業内容の検討(PoC とマーケティング)に臨み、23日に都内で開催されたデモデイで結果を披露した。
東日本各地に展開する NTT 東日本のアセットやリソースを活用した地域課題の解決を念頭に置いた協業アイデアを求めたことから、アイデアの一部は NTT 西日本が以前開催していたスタートアップアクセラレータ「Startup Factory」にデモデイで披露されたこのと似ているものもあった。なお、NTT 西日本は2015年と2017年の2回にわたって開催し Startup Factory を終了、現在は社員をスタートアップにレンタル移籍する形でのアプローチにシフトしているようだ。
今バッチ開催にあたって、NTT 東日本では社内事業部や各支店から課題を500件募集、スマートシティやスマートソサイエティというテーマで、これらの課題を解決できる協業アイデアをスタートアップと醸成していった。デモデイでは、7分間のピッチ内容を課題解決、新規性、NTT グループとのシナジーなどの観点から評価し、最優秀賞1社、優秀賞1社、オーディエンス賞1社が選ばれた。なお、賞に選ばれたかどうかは、今後、NTT 東日本と当該スタートアップが協業するかどうかとは直接関係しない。
審査員を務めたのは、
…の皆さん。オーディエンス賞は、会場でピッチを見た一般参加者の投票によって選ばれた。本稿では、入賞を果たしたチームを中心に取り上げる。
【最優秀賞】inaho
農作物は、米やジャガイモのように収穫時期が来た時点で一括収穫するものと、大きさや収穫適期のものだけを選択収穫するものに大別される。特に選択収穫する農作物は自動化が難しく人手によらざるを得ないが、農家にとっては収穫のための人手を通年雇用することは難しく、また、生産プロセス全体において収穫作業の占める割合が非常に多い。「inaho」は、農作物を一つずつ見極め、収穫に適したものだけを収穫するロボットだ。アスパラガスから着手し、現在は、トマトやキュウリでの実験を始めている。
inaho はロボットを売り切りではなく、収穫高に対する割合で手数料をもらう形態でサービスを提供。農家にとっては初期投資を抑えられ、収穫のための人件費よりも安くなるため導入のハードルを下げられる。inaho は現在、佐賀県内に2つの支店を持っているが、サポート体制の都合から、現在サービス提供先の農家をそれぞれの支店から半径30km以内に限定している。inaho では NTT 東日本と協業し、このサービス拠点を全国展開することを期待している。類似した課題を持つオランダにも拠点を作り市場進出の予定。2019年 B Dash Camp in 札幌で準優勝。
<関連記事>
【優秀賞】知能技術
病院に入院する高齢者は、推定で毎年200万人が転落し、うち5万人が骨折など大きな怪我を経験し、場合によっては死亡に至るケースもある。施設では人手不足から巡回・確認するには限界があり、一方で、事実上の虐待となるため、高齢者を身体拘束することも許されない。知能技術は、少人数でも効率よく高齢者を見守れるようにした、高齢者の安全性向上と、施設の職員の負担軽減を狙った AI クラウドサービスだ。ベッド近くに設置されたセンサーからデータを収集、個々の患者の行動を理解し、その傾向を把握できる。
システム開発の過程で介護施設へのインタビューした結果、介護職員の負担軽減が強く求められていることが判明。夜間巡回を減らすため、体位の確認、体温計測、呼吸確認ができる機能を追加した。従来センサーは転落したのを確認することしかできなかったが、安全を見守れるところまで機能向上した。NTT 東日本とは、クラウド、ネットワーク環境整備などで連携。将来は、転落を予期できたときに、それをを防止する(例えば、エアバッグのような)機能の実装などで他社との連携も模索したいとしている。
【優秀賞】DG TAKANO
東大阪の町工場に端を発する DG TAKANO は、節水ノズル開発のトップメーカーだ。同社の節水ノズル「Bubble 90」は、ノズルから噴出させる水を水圧だけで水玉化することで、洗浄力を維持したまま最大で95%の節水が可能。地球上に存在する水のうち、人間が利用可能な淡水はわずか2%であり、国連食糧農業機関(FAO)は、2025年に世界の3分の2で水不足の危機に陥る可能性を示唆している。環境面からも、また経済面からも、日本で多くの飲食店、病院、福祉施設、スーパーマーケット、工場などに導入されている。
Bubble 90 の販売会社である DG SALES では150名体制で営業活動を行なっているが、リーチできていない市場があり、その一つが水を多用するホテルや寮の市場だ。DG TAKANO と DG SALES では、ホテルや寮運営大手の共立メンテナンスにリーチ。NTT 東日本やテルウェル東日本の協力を得て、今後、Bubble 90 のホテルや寮向けの全国展開を図る。将来は、東南アジアやアフリカにも進出し、世界の水問題の解決に寄与したいとしている。
【優秀賞】LUUP
LUUP は、マイクロモビリティを都市に実装しようとする MaaS スタートアップだ。街のあらゆる場所にモビリティ機器を借りたり返したりできるポートを配置し、高齢者も含め全ての人が安全かつ便利に利用できるモビリティのプラットフォーマーになることを目指している。2019年6月から12月にかけ、モビリティ機器の機体検証とポート型モビリティシェアサービスの事業検証を、全国25カ所で実施した。ポートの整備、設備実装などで NTT 東日本との協業を提案した。
同社では、ポートとモビリティ機器にカメラや IoT 機器を実装することで新たなビジネス機会を模索。モビリティにドライブレコーダー、ポートに WiFi を設置することで、モビリティが返却される都度、ドラレコの録画内容が WiFi 経由でクラウドに集積できる。また、ポートにもカメラを備え、道路など付近の様子の録画をリアルタイムで集積。移動データと映像データをもとに、同社ではビッグデータ活用の企業のマーケティング支援、自治体の防犯対策支援などを検討している。
<関連記事>
【オーディエンス賞】空
空は、ダイナミックプライシングによるホテルの価格設定支援サービスを提供している。同社の「MagicPrice」は、ホテルが周辺の競合ホテルとの比較や過去データに基づいた需要予想にも基づき、機械学習で最適な価格をリアリタイム計算。計算された価格は、自社サイトのほかサイトコントローラを経由して、旅行予約サイトや OTA にも自動反映できるしくみだ。同社では一年ほど前からホテル分野以外への進出を模索し始めており、2ヶ月ほど前には小売業界への進出を発表したばかりだ。
空では、NTT ル・パルクの協力を得て、駐車場へのダイナミックプライシング導入の実証実験を始めている。NTT ル・パルクの料金設定担当者へのヒアリングを経て価格設定モデルのヒントを収集、それらをもとに価格設定モデルを構築し、駐車場向けの価格最適化サービスのプロトタイプを開発した。関東を中心に NTT ル・パルクの約400拠点ある駐車場で料金をいつ変更すべきか、ウェブスクレイピングで同社パーキングから半径400メートル以内の競合駐車場の料金をモニタし、変更があった場合にアラート通知を行う。
<関連記事>
以下は入賞はしなかったものの、第3期に採択されたスタートアップ9社。
BRIDGE Members
BRIDGEでは会員制度「BRIDGE Members」を運営しています。会員向けコミュニティ「BRIDGE Tokyo」ではテックニュースやトレンド情報のまとめ、Discord、イベントなどを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。登録は無料です。無料メンバー登録