88万円のカメラを買うこれだけの理由。ソニー「α1」
ソニーが3月中旬に販売を開始した「α1」。ソニーオンラインショップでの価格は88万円
継承された小型軽量ボディと独特のシャッター音
α1の実機を手にしてまず驚いたのは、外観が既存モデルから大きく変わっていないということ。ソニーが満を持して投入するプロモデルということで、キヤノンEOS-1DシリーズやニコンDひと桁シリーズのように縦グリップ一体型になるかも、という予測も発表前にはありましたが、いざフタを開けてみれば、デザインの大幅リニューアルはなし。これまでのαシリーズに共通した小型軽量ボディが継承され、角や面を生かした基本フォルムも受け継がれています。
この外観に、“80万円オーバーのカメラ”という強い押し出しは感じません。α9 IIと並べても、2台をすぐに見分けるのは困難でしょう。それどころか、遠目なら普及機α7 IIIとも大差ありません。88万のカメラも25万のカメラもパッと見の印象は同じ……。いかにも高そうなカメラをドヤ顔で使いたかった人、つまり私のようなカメラおたくには少々物足りないところです。
2つ目の驚きは、試しにシャッターを切った瞬間に訪れました。コトッ、コトッっと扉をたたくノックのような小さくて短い音。え、これがシャッター音なの!? と驚くのは筆者だけではないでしょう。電子シャッターを選んで無音にできるのは従来どおりですが、通常のメカシャッターの状態でさえ、非常に小さくておとなしい音なのです。
ちなみに、フルサイズミラーレスαシリーズのシャッター音といえば、初代モデルα7/α7Rの大きくて甲高い響きから始まり、その後、シャッターユニットの改良や衝撃吸収ダンパーの採用などによって代を重ねるごとに小さく控えめになってきました。特に、2019年発売のα7R IV以降の上位モデルは、それ以前の製品に比べて大幅に静音化しています。
そんな静音&低衝撃化の流れを受け継ぎつつ、さらに短く、より優しい音に変化したのが今回のα1のシャッター音です。新たに、シャッター幕にカーボンファイバー素材を用いたことで、これまでのどんなカメラにも似ていないソフトなシャッター音が生まれたのです。人によって好き嫌いが分かれる音かもしれません。個人的には最初こそ戸惑いましたが、使い込むうちに徐々に心地よく耳に馴染んできました。
ただ、例えば大きなシャッター音によって撮影現場の緊張感を高めたり、撮られる相手のテンションを上げていく、といった昔ながらの撮影方法には向いていません。一方で、スナップや野生動物、風景などを静かに捉えたり、人物撮影でもシャッター音を響かせずに、会話をしながら撮るといったスタイルには好適です。
このように、α1に対する私の第一印象は、外観デザイン「△」で、シャッター音「○」といったところ。まあ普通です。正直なところ、ボディを触っただけでは88万円の価値やトキメキは少しも感じず、購入意欲もわきませんでした。
ところがです。そんな気持ちは、外に出て実際に撮影を行ってからは徐々に変化。撮れば撮るほど脳内の物欲メーターがじわじわと上昇し、しまいには「仕事用のカメラとして是非買いたい! いや、買う!!」と180度変わりました。
α1のどこに魅力を感じたのか。ここからは私にとって購入の決め手になった4つのポイントを紹介しましょう。
「画素数番長」と「連写番長」の2台が融合
魅力の1つめは、高画素と高速連写の両立です。α1は、新開発の積層型CMOSセンサーと画像処理エンジン「BIONZ XR」を搭載することで、5010万画素の高画素データを30コマ/秒の高速で撮影可能になっています。
これまでのαシリーズ上位モデルは、得意分野ごとに製品が分かれていました。そのため、ディテールの再現性を重視するなら「画素数番長」であるα7R IV(6100万画素で10コマ/秒)の出番、スピードを重視するなら「連写番長」であるα9 II(2420万画素で20コマ/秒)の出番、といった選手交代が必要でした。しかし、撮影シーンや使用目的によってはディテールとスピードの両方が欲しいこともあるでしょう。
例えば筆者は、動きの激しいスポーツシーンや動物、野鳥などを撮る際、被写体を画面内にバランスよく収めるために、やや引き気味に捉えたうえで、RAW現像の際にトリミングをして構図を整えるという撮り方をよくします。そんなときこそ、α7R IVに近い画素数と、α9 IIを超える連写スピードを兼ね備えたα1が活躍してくれます。
広告写真では、レイアウトやコピースペースの自由度を高めるために、メインとなる被写体をあえて画面いっぱいには捉えず、周辺にスペースを残した構図のほうが、デザイナーに好まれることがよくあります。その意味でも、仮にヨコ位置の写真をタテ位置にトリミングしても実用十分な画素数を維持できる、つまりトリミング耐性の高いα1がありがたいのです。
以下の写真は、同じ場所をα1(5010万画素)、α9 II(2420万画素)、α7R IV(6100万画素)で撮り比べたもの。遠景にある看板の文字を見比べると、画素数に比例して解像感が高まることが分かります。どこまでの解像が必要かは用途によって人それぞれですが、私の場合はα9 IIでは物足りなく、α1やα7R IVなら十分、といったところです。
8Kムービーを生かして動画と静止画を同時に残す
2つめのポイントは、動画の8K対応です。α1は、シリーズで初めて8K(7680×4320ピクセル)30pの動画機能を搭載し、カラーサンプリング4:2:0、ビット深度10bit、フォーマットXAVC HS方式による8K記録ができます。
人によっては、4K動画でさえまだあまり需要がないのに8Kなんて要るの?と感じるかもしれません。私自身も、少し前までは8K導入はまだ先でいいやと思っていました。現に、仕事で撮る動画のほとんどはフルHD止まり。編集時にパンやズームをするために撮影は4Kで行っても、納品はフルHDというケースが今のところほとんどです。
それでもα1の8Kに引かれるのは、動画と同時に静止画を残したいからです。最近は、写真撮影と同時に動画も撮って欲しいという依頼が増え、静止画用と動画用のそれぞれにカメラを用意して、1人で2台を操作しながら撮ることがあります。そんなとき8Kで撮っておけば、動画と静止画をカメラ1台で同時に記録できるというわけです。
もちろん、動画はシャッター速度を遅くする必要があるため、動きのあるシーンではシャープな静止画を切り出すことができないという、α1に限らない一般的な問題はあります。さらに、動画と静止画では最適なライティングが異なることや、後からの静止画キャプチャに手間がかかるといったデメリットもあります。ただそれでも、動きの少ないシーン限定であっても、動画と静止画の一石二鳥の撮り方に私は可能性と面白さを感じています。
以下はα1、α9 II、α7R IVの3台を使って、それぞれの最大サイズで動画を撮影し、その1コマを静止画として切り出したもの。α1だけが一段上の解像度であることがわかります。
そのほかに動画関連では、これまでの動画番長「α7S III」と同じく4K/120pのハイフレームレート記録に対応したことや、4KのRAW動画を外部レコーダーに記録可能になったことなども見逃せません。