Vol.29 空の移動を再構築するUrban Air Mobilityがやってくる![Drone Design] | DRONE
これまでにもいろいろ紹介してきたパッセンジャー・ドローンやフライング(エア)・タクシーと呼ばれる空の移動手段ですが、ここにきてUrban Air Mobility=UAMというカテゴリという新たな成長市場として注目を集めるようになっています。
UAMは新・都市交通システムとも言われ、都市や郊外で乗客や荷物を運ぶシステムやサービスと定義されています。人口が集中する都市圏において、渋滞を回避して陸路を効率良く移動する手段として登場し、やがてスマートシティ構想に不可欠な要素の一つとして本格的に研究開発が始まりました。2015年頃には機体の開発から運用まで行うベンチャーが次々と登場。ポストコロナに向かって世界中の都市が経済活動を再開させる中、気候変動による環境対策の必要性が大きく高まった影響で自動車業界や航空業界からも参入が増え、一気に投資が加速しています。
UAMの市場規模は2020年で約26億ドルだったのが、2030年には91億ドルまで成長するとされています。リサーチ会社によって数字はだいぶ変わり、2019年にはすでに約58億ドルもの市場規模があり、本格的なサービスが始まると言われる2035年には、1000億ドルを越える規模にもなると予測されています。
参考:リサーチステーション、グローバルインフォメーション
投資の対象となるベンチャーも順調に成長しています。ビジネス展開では大きく先行する中国のEHang社は2019年9月にNASDAQに上場しており、本格的なサービスに向けて機体の大量生産を開始したと発表しています。今年8月にNYSE(ニューヨーク証券取引所)に上場したJoby Aviation社は、トヨタがeVTOLの開発と生産で協業を発表し、約4億ドルを出資しています。さらに翌月にはドイツのLilium社がNASDAQへ上場を果たし、2024年には7シートのLilium Jetを複数の都市でサービスインするとしています。UAMにいち早く着手したドイツのVolocopter社もロサンゼルスに本拠を置くUrban Movement Labs社と提携し、8月に2人乗りのVolocopter 2Xによる試験飛行を公開しました。
ここに来てさらにUAMを加速させているのが、国や自治体の存在です。メガシティと呼ばれるような大都市ではまだ実証実験は難しい状況ですが、その周辺で人口が集中するエリアでは、都市間のハブとしてUAMを活用しようとしています。スマートシティを描くコンセプトビデオでもUAMは中心的存在になっていて、未来の都市計画は空の移動と自動運転車ありきで進められているようにも見えるほどです。
ホンダが発表したコンセプトムービー
世界のアーバンモビリティの最新トレンドを共有するプラットフォームであるShift Mobilityは、今年9月にベルリンとオンラインのハイブリッドで開催した国際コンベンション「Shift X」の中で、次に期待されるモビリティの形としてUAMを取り上げています。
プログラムの一つ「Urban Air Mobility - When Will We Start to Fly?(UAMはいつ飛び立つ?)」に登壇したEHang社のヨーロッパマーケティング最高責任者を務めるAndreas Perotti氏は「UAMは自動車の歴史で言えばまだ1920年代頃にあるが、道路やトンネルを造る必要が無いので、業界標準が決まれば、多様なプレイヤーが参加して急成長するだろう」と話しています。ドイツ航空宇宙センター研究員のPrajwal Shiva Prakasha氏は、「地域によって運用課題は異なるが、多くの企業はスタートから2年ほどでUAMを飛ばしており、天候対策など技術的な問題はクリアするのではないか」とコメントしています。
気になる利用価格については、ヘリコプターのイノベーションなので通常より運用や整備コストは下がるはずだし、富裕層だけが利用するものにならないよう気をつけるとしています。そのためには、機体の開発からルート設計、ユーザーとのつながりまで競合ではなくコラボレーションできる、バリューチェーンのエコシステムを目指す必要があるとの意見もありました。ドイツの都市ハンブルグの航空産業クラスタであるHamburg Aviationで、Windrove&UAMプロジェクトのリーダーであるDaniela Richter氏は「いきなり大規模な運用を始めるのではなく、小さな規模から確実にUAMを浸透させる」と言います。
このプログラムを見て感じたのは、UAMは既存の航空規制や交通規制をベースにしつつ、新たな発想が必要だということです。例えば騒音も空の上から聴こえると通常よりも恐怖を感じやすく、安全性も含めてルート設計は慎重さが求められます。都市の上空を最短ルートで静かに飛ぶには、やはり機体そのものの開発は重要であり、デザインも含めてこれからが始まりなのかもしれません。
国内では2018年に経済産業省と国土交通省が「空の移動革命に向けた官民協議会」を開催していて、5月に開催された第7回の会合では、トヨタ、Joby Aviation社、Volocopter社が構成員に加わっています。また、大阪市と大阪府が2025年開催の大阪万国博覧会にあわせて「空飛ぶクルマ」を実現する「大阪・関西万博×空飛ぶクルマ実装タスクフォース」を設置し、実現に向けた連携協定をSkyDrive社と発表しています。三重県も欧州のUAM Initiative Cities Community(UIC2)のパートナーに参加しており、自治体での動きも進みそうです。
UAMがこれからますます話題になりそうですが、近いところでは11月にはUAMを含む、都市におけるモビリティシステムの改革をテーマにしたカンファレンス「CoMotion LA」も開催されるので、その内容についても機会があればこちらでご紹介する予定です。