国産ドローン「SOTEN」は、なぜセキュリティーにこだわるのか (1/3)
千葉大学名誉教授で日本ドローンコンソーシアム会長の野波 健蔵氏(写真左)と、ACSLの代表取締役社長兼最高執行責任者の鷲谷 聡之氏(写真右)
「SOTEN(蒼天)」は、ACSLが2021年12月に受注を開始した、小型空撮ドローンだ。
命名は、“空(天)という無限大の可能性を持つ空間を自在に飛行する姿”のイメージから。インフラ設備の点検、農業、防災、災害時の状況把握や測量といった用途での活用を見込んでいる。
大きな特徴は、その高いセキュリティー性だ。コンピューターセキュリティーのための国際規格であるISO15408に基づくセキュリティー対策を実施し、情報の漏洩や抜き取りへの耐性を高めているほか、機体と送信機をペアリングする機構を設けることで、機体の乗っ取りもしにくくした。
本稿では、ACSLの代表取締役社長兼最高執行責任者の鷲谷 聡之氏と、千葉大学名誉教授で日本ドローンコンソーシアム会長の野波 健蔵氏の特別対談として、SOTENの競合優位性から、レベル4に向けて加速するドローン事情について、広く話を聞いた。
ドローンにとってのセキュリティー性とは
――野波先生は、SOTENをご覧になったとき、どのような印象をお持ちになりましたか?
野波「第一印象としては、よくできてるなと思いましたよ。何でもそうですが、最初に出てくる製品ってあまり出来がよくないことが多いんですよ。開発期間も1年半くらいでしょ」
鷲谷「そうですね。大体、そのくらいです」
野波「1年半くらいの期間で、よくここまでやったなと思います。見た目もいいし、デザイナーも優秀だなと感じました。折り畳むとロボットの形になるんだよね」
鷲谷「使う人に親しみを持ってほしいと思って、そういう工夫を入れてみました」
野波「それも面白いですよね」
――SOTENは、セキュア性にこだわった国内製造のドローンという側面を持っています。このファクターは、ドローン市場にどのようなインパクトを与えると予想できるでしょう。
野波「セキュアなドローンという考え方はすごく大事です。たとえば製鉄工場のプラント点検に使えば業務の効率が改善することが明らかだったとしても、そういった大規模な工場はセキュアな製品でないと使えません。あらゆる分野で、外国から物を入れなくても、国内で作ったもので安全性が保障できることは基本です」
ドローンにとってのセキュア性は重要テーマだと話す野波氏
――セキュリティー性がともなっていないドローンを使うことには、どのようなリスクがあるのでしょう。
野波「セキュリティーが担保されていないということは、無防備な状態で機体とクラウド間をデータが行ったり来たりするということになりますから、まずはデータ漏洩ですよね。日本でドローンといえばシビルのものでしょう。海外市場では、ドローンはミリタリーの分野で使われることが多いんです。本来は、国防という観点で対策をする必要があるんですよね」
鷲谷「データ漏洩のリスクもありますし、機体の乗っ取りということも考えられますよね」
野波「機体が乗っ取られて、原子力施設などに突っ込まれたら、大変なことになってしまいますからね」
――関連した話なのですが、デジタルの分野では、バックドアが話題になることがありますよね。あれって、誰がどういうタイミングで入れるのがスタンダードなんでしょう。
野波「そこは、一概には言えません」
鷲谷「ドローンもPCやスマートフォンと同じですが、製造過程で色々なレイヤーがありますから、それを後から追うっていうのは難しいんです。だからこそ、信頼のできるメーカーの部品を使って組み上げることが重要ですし、SOTENもそこにこだわっています」
野波「製造過程の色々なタイミングで入る余地はありますよ。例えば、開発する会社はまともなことをやっていたとしても、基板の設計を下請けにお願いすることもありますよね。基板の設計を受けた企業が、基板に使うチップをさらに孫請けにお願いして、孫請けの企業は、ひ孫受けに製造をお願いしたりすることもあるわけです。そうすると、国境も組織も超えて、色々な組織や人が開発に携わるので、孫請けやひ孫受けのところまで、安全性をフォローできなくなってしまうんです」
鷲谷「うんうん」
野波「そういう意味では、ソフトウェアも同じ過程で開発されますから、セキュア性が求められる分野では、オープンソースのソフトウェアは実は望ましくないんですよね。ハードはまだ目視できますが、ソフトウェアになると、それこそ誰もわからないところにリスクが潜在している可能性もあるわけですから。極端なことを言えば、ドローンが空を飛び回っている時代になってから、いっせいに反乱を起こすようなこともあり得ますよ」
バックドアは、製造過程のどの段階で入るのか、後から追うことが難しい
――手塚治虫の世界ですね。
野波「そうそう。ロボットの反乱」
ドローン業界のシェア事情
――SOTENが発売された意義は大きいですね。お話をまとめると、国防の観点からもSOTENが普及することは望ましいと思いますが、そこにはどのような課題がありますか?
野波「いま、DJIの『Phantom 4 Pro』という製品がすごく大きなシェアを持っています。20万円くらいで買えて、安定性も高いので、世界中で使われているんですよね。このPhantom 4 Proが普及した一つの理由は、インターネット上に大きなコミュニティーがあることだと私は思っています」
――コミュニティーですか。
野波「つまり、世界中のPhantom 4 Proのユーザーが、インターネット上で情報交換ができるような状態になっていて、そこを見ている人も多いということです」
――なるほど。
野波「機体そのものの魅力っていうところも大事ですが、そういったつながりで普及することもあるので、SOTENユーザー同士のコミュニティーができてくるといいと思いますね。SOTENって、いくらで販売するんだっけ?」
鷲谷「オープン価格で、公表はしていません」
野波「価格次第なところもありますが、セキュアっていう強みもあるから、うまくいけば、3〜4年でオセロのようにシェアがひっくりかえることもあるんじゃないですか。あとは、ドローンをツールとして使ってもらうなら、購入後のメンテナンス性も大事ですよ。プロペラが折れるたびに修理に出していると、業務用のツールとしては利便性が低くなります。Amazonとかで、誰でも修理用パーツが買えて、すぐに直せるようになっているといいんじゃないですか」
鷲谷「参考になります」
野波「そういうのを出すと、後から安価なサードパーティー製も出てきたりして、収益の面でどうかっていう問題はあるけどね」
鷲谷「それはありますね(笑)」