沿って, Uav-jp 31/03/2023

ニュース番組をシネマカメラで撮る理由。ABEMAが目指す“心地良いテレビ”

スマホに最適なニュース番組の画とは?

テレビ朝日とサイバーエージェントが協力してスタートしたABEMAは、4月11日に開局5周年を迎えた。年間を通して「ABEMA 5th Project」と題した大規模プロジェクトを展開しており、その一環として、ニュースチャンネルの撮影スタジオがリニューアルしたそうだ。そして、そのタイミングで導入されたのが、Eマウントを採用し、フルサイズセンサーを搭載したソニーのCinema Lineカメラ「FX6」だ。

ソニーのCinema Lineカメラ「FX6」

ご存知の通り、明るいレンズを装着し、絞りを開け気味にして撮影すると、映画やポートレート写真のように、人物の背景がとろけるようなボケ味の映像が撮影できる。だが、今までテレビのニュース番組を見ていて、「アナウンサーの背景がとろけるボケ味だなぁ」と思った人はいないだろうし、ニュース番組で、“ボケ”にこだわったという話も聞いたことがない。ではABEMA NEWSはなぜ、ニュース番組のシネマカメラで撮影しようと考えたのか。

テレビ朝日アートディレクター 兼 ABEMA NEWSクリエイティブ統括の横井勝氏によれば、その背景には、ABEMA NEWSチャンネルがスタートした時から追求している“シンプル&スタイリッシュ”というテーマがあるという。

横井勝氏

ABEMAは、PCのWebブラウザや、テレビにインストールしたアプリなどから表示できるが、ユーザーの大半はスマホアプリで視聴している。当然のことながら、スマホの画面はパソコンのディスプレイやテレビと比べて小さい。

ニュース番組をシネマカメラで撮る理由。ABEMAが目指す“心地良いテレビ”

一方、テレビ向けの一般的なニュース番組は“多くの情報を視聴者に届ける”事を目的としているため、画面の情報量が多い。ABEMA NEWSのデザインを担当する横井氏は、「画面の小さなスマートフォンに、テレビのニュース番組をそのまま表示してしまうと、情報量が多すぎて見にくくなります。スマホの画面サイズに適した、シンプル&スタイリッシュな画作りは、特に今回のリニューアルでもこだわっているポイントです」と語る。

例えば、情報バラエティ番組などでは、キャスターに加え、コメンテーターやゲストなどが何人も登場する。全員が写るように、“引き”で撮影した場合、テレビでは問題ないかもしれないが、スマホの小さな画面では、1人1人の顔がよく見えなくなり、視聴者にストレスになる。その場合は、例えば2人とか、1人とかにグッと“寄って”その人の表情が良く見えるようにする。つまり、画の情報量を減らしてシンプルにするわけだ。

人の数だけではない。例えば、テレビ番組の場合は、画面の下部だけではなく、左右や中央など、様々な場所にテロップが入る。テレビの画面サイズであれば“派手で面白そうな、情報量の多い画”になるのだが、小さな文字が読みにくいスマホ画面では、テロップが大量に入ると逆に見にくい画になってしまう。

「ABEMAでは最初からテロップを少なめにしていますが、それに加え、使用できるフォントの制限や、使える色数も絞っています。地上波の番組では、他より目立たせようと様々な色を強く使ってしまう傾向がありますが、ABEMAでは“出過ぎる”必要がありません。それよりも視聴者の邪魔をしない、見ていて“心地の良い画”を作る事が大切です。簡素にし過ぎると“デザインしてないじゃん”と言われてしまうのですが(笑)、そうではなく、シンプルだけど粗末ではない、“ナチュラルで心地の良い画”を追求しています」(横井氏)。

辻歩キャスターに実際にスタジオに座ってもらった。写真でも動画でも、明るいレンズで撮影すると、背景がボケて、見ていて心地の良いものになる

つまり、テレビのニュース番組の作り方をそのままスマホに持ってきても、最適なものにはならない。“スマホで見やすい画”を作らなければ、見ている人にストレスを与えてしまう……という話だ。面白いのは“ストレスのない画”という“マイナス要素の無い画面デザイン”を追求するのではなく、“見ていて心地の良い画”というプラス要素のある画面を目指すという姿勢だ。

映画や旅番組で「美しい映像だな」「見ていて気持ちがいいな」と感じる事はあるが、ニュース番組の映像に対して“心地の良さ”を感じた人はあまりいないだろう。しかし、ABEMA NEWSのように365日、24時間流れている番組では、アプリで表示しっぱなしにしたり、ブラウザで表示し続けるなど、長時間流しっぱなしにしている人も多い。生活に寄り添うように存在するニュース番組として、“心地の良さ”がさらに大事になるだろう。

ニュース番組収録のスタジオ