スキー・スノボで気をつけたいツリーホールについて 雪国在住の筆者が解説
日本海側を中心に全国的に大雪に見舞われ暮れようとしている令和3年。束の間の晴れで心配なのはスキーやスノボでの遭難。特に降り始めの新雪ではツリーホールや小川に落ちて脱出不能になることがあります。
筆者(注)の住む新潟県、特に越後湯沢(湯沢町)では「これぞ雪国」と言うにふさわしいくらいの積雪で、現在130 cm近くに達しています。24日夜から降り続いた雪は24時間の降雪量が80 cmほどとなり、天気予報が大当たりの大雪(雪国では普通ですが)の状況にあります。
大雪とは、単に2 mの積もった雪(積雪)を言うのではなくて、一晩で1 mくらい降った雪(降雪)を指します。なぜなら、2 m積もった雪は片付ければ済むのですが、1 m降り続く雪には気持ちが押しつぶされそうになります。
ツリーホールって何
雪国の立ち木の下には、穴が開いています。これをツリーホールと言います。積雪シーズンには、落葉樹の根もとよりも、針葉樹の根もとで大きいものが見られます。詳しくは、筆者記事「大雪のあるある ツリーホールとその危険性を中心に雪国の住民が解説」をご参照ください。
冬の間、雪の降り始めから雪が融けだすまでの間、これは存在し続けるものですが、雪の降り始めの新雪の時期が最も危険な存在となります。
図1をご覧ください。おととい12月28日の新雪で最も危険な時期に子供たちが右上の樹木の下で雪山を作り始めました。写真中央より左下には出来たてほやほやのツリーホールがあります。深さは子供の背丈ほどあります。保護者はそばにいなかったので、樹木の下から離れるように声を掛けようとした時に、樹木の下から離れていなくなりました。何事もなくてよかった。
新雪時のツリーホールの危険性について
(1)ツリーホールの存在そのものに気が付かない
(2)落ちたら這い上がりが極めて困難である
(3)樹木に積もった雪が落下して埋まる
全てが、新雪のためにふわふわであるからこその危険性です。特にスキーやスノーボード中に滑走エリアの外に出て立ち木にぶつかったとか、脱出不能になったとかいう表現で遭難事故のニュースがあった場合、多くはツリーホールを含む、窪地が原因として関係しています。
滑走エリアの外に出るとどうなるか
スキー場では滑走エリアがきちんと決まっていて、滑走エリアの外に無断で侵入した場合「リフト券を取り上げることがある」と警告するスキー場があるくらいです。それくらい危険な行為です。
ツリーホールへの転落
動画1は滑走エリア外にあるツリーホールの様子を撮影した動画です。ここは比較的エリア外滑走が行われる場所です。新雪が積もって最初の晴れの日だったので、気持ちよく新雪の上を滑走した跡があることがわかります。
動画は、最初に斜面下からホールを撮影した映像を写しています。その後斜面上に移動して、樹木全体を写しています。上から見ると、ホールの存在には全く気がつきません。少しずつ近づいていきますが、やはりホールの存在には気がつきません。樹木の横に回りやっとホールが見えてきました。
ここから筆者が、危険な水域に入水するのと同じように、緊急脱出手段を設定してからツリーホールの中に下って入りました。ホールの底では雪の深さが1 mほどあり、周辺は崩れやすい新雪で囲まれています。なお、正しい脱出手段を設定しないと本当に遭難しますので、安易に動画のマネをしないようにお願いします。
動画1 ツリーホールの中に下りてみた(筆者撮影、1分59秒)
小川への転落
スキー場の中でV字型になっている地形には、間違いなく小川が流れています。ところが、新雪が降り積もるとその小川は雪に埋もれて存在が全く分からなくなります。ましてや全体的になだらかな窪地になっているので、そのような積雪箇所ではV字よりはU字に見えます。
U字だとはまり込んでも上がれそうな錯覚に陥るのですが、そんなことはありません。そしていくら浅い小川と言っても水温は極めて低く、その水がスキー靴を通して中に入ってくれば、足の動きが鈍くなってきます。
上の数行は、実際に筆者が若い頃にスキーパトロールをしていた時に出会った事案です。パトロール数人でも人力救助は無理でした。幸い、スキーヤーは手袋をしていて指には力が入る状況だったので、緊急脱出ロープを投げてロープにつかまってもらいながら、自力で脱出してもらいました。筆者の冷水水難救助の最初の経験でした。
自力で脱出はほぼ不可能
新雪ツリーホールのような窪地からの自力脱出はやっかいです。なぜかというと、はまる時にはスキーなどで滑走してはまるのですが、脱出の時にはスキー板やボードを外さなけれならないためです。
スキー靴で新雪の斜面を上がるのは相当な困難です。小川へ転落した前述したスキーヤーはまず新雪斜面を上がることができませんでした。そして上がれたとしても新雪の中を歩くことは極めて体力の必要なことです。スキーで滑ってきた距離の分を新雪の中、徒歩にて戻ることはまず無理だと考えてください。
動画2に長靴の状態で深さ130 cmの新雪の中を歩く様子を示します。股下まで雪に埋まり、足先を股下以上に持ち上げて次の一歩を踏み出しています。10 mほど進んだでしょうか。疲れてダウンしました。
動画2 ふわふわ新雪の中を長靴で歩いてみた(筆者撮影、1分15秒)
スキーパトロールが救助できるかというとこれも難題です。そもそもパトロールはスキーを履いて行けるところまでしか行くことができません。ツリーホールや小川に下りることは、要救助者と同じ目に遭うことを意味しています。
輪かんじきを知っている方なら、「救助隊はそれを履いて現場に近づけるだろう」とおっしゃるかもしれません。でも、それは幻想です。輪かんじきは凍み渡り(雪の表面が凍って少し強度が出る状態の上を歩く)ができる時期なら効果的ですが、新雪ではほぼ役立たずです。
動画3をご覧ください。昔ながらの輪かんじきでは歯が立たず、現代のプラスチックかんじきに履き替えて、それで新雪を歩く様子を示しています。長靴よりは幾分ましですが、それでも膝上まで雪に潜りながら歩いている様子が見て取れます。
動画3 ふわふわ新雪の中をかんじきで歩いてみた(筆者撮影、1分31秒)
命を守るためには
やわらかいふわふわ新雪の上をスキーやスノボで滑走したい気持ちはよくわかります。でも滑走エリア外に出たらダメです。
万が一、新雪の窪地にはまり込んだら、携帯電話で119番通報し救助隊を呼びます。雪国の救助隊なら近づくことはできますが、陸上隊による要救助者の救出と搬送は状況によっては困難を極めます。その場合は、航空隊が吊り上げ救助を行うこともあります。その辺の手順は、荒れた海に取り残された釣り人の水難救助活動と同じです。
注 水難の専門家である筆者ではありますが、雪にまつわる事故と水難事故とではかなりプロセスが似ていて、筆者の毎日の雪国経験と水難事故調査の経験とを合わせると、新しいジャンルの構築となったかと思います。例えば、氷と水の関係性、没すれば窒息や低体温に陥る関連性、ブレーキが利かないということでは、車とボートの共通性。雪国の住民が現場にて科学の目で見た事実を記事にてお届けします。