沿って, Uav-jp 02/03/2023

中国が打ち上げに成功した火星探査機は、新たな「宇宙開発競争」の始まりを象徴している

過去20年、火星における人類の活動の唯一の徴候といえば、荒涼たる不毛の地をゆっくりと移動する米航空宇宙局(NASA)の火星探査機だけだった。そのうち、いまも稼働し続けているものは「キュリオシティ」だけだ。

だがほんの数カ月のうちに、火星に向けて新たな探査機が出発することになる。ひとつは「キュリオシティ」の後継機だ。NASAは、「Perseverance(パーサヴィアランス)」と名付けたその探査機を、生物の痕跡が含まれている可能性がある火星の土のサンプルを採取するミッションへと送りだす。それは、これまでにほかの惑星の地表に着陸したなかで、最大かつ最も自律的なロボットになるだろう。

もうひとつの新参者は、周回機と着陸機と探査機を組み合わせた中国の「天問1号」になる[編註:7月23日に打ち上げに成功した]。この探査機は、「パーサヴィアランス」より小さいとはいえ、これまでにつくられた最も複雑な機械のひとつであることには変わりない。もし中国が火星に探査機を配備することに成功すれば、世界で史上2番目の成功国となる。

中国から世界への“メッセージ”

米国を除けば、これまで探査機の配備を試みた唯一の国家は旧ソヴィエト連邦(ソ連)だが、ソ連は2度失敗した。火星は極めて困難なターゲットであり、「天問1号」は中国にとって、中国はもはや宇宙探査の参加国のひとつではなくリーダーであるという、全世界に向けたメッセージなのだ。

中国が打ち上げに成功した火星探査機は、新たな「宇宙開発競争」の始まりを象徴している

「中国は世界クラスの科学技術力をもっていると証明することになります」と、ヘリテージ財団の中国宇宙計画の専門家であるディーン・チェンは指摘する。もっとも、世界に力を見せつけるためだけではないのだという。国家の威信と政治的意思の勝利という点でも重要だというのだ。「中国共産党がパワフルで国家を導く能力を有していることを、中国の国民に示すことになります」と、チェンは語る。

「天問1号」は、探査機、着陸機、周回機という3つの宇宙船がひとつに合体した形になっている。探査機は着陸機の胴体部に収められており、探査機が火星の軌道に到着してから2カ月ほど経ったときに着陸機は周回機から分離し、火星の地表へと向かう。周回機は少なくとも1年かけて上空から着陸機を監視し、着陸機が収集したデータを地球へ送りながら、周回機も独自に科学的調査を実施する。

火星の大規模な調査を実施

中国の科学者は探査機の着陸地点を発表していなかったが、火星最大の衝突クレーターにあるユートピア平原が筆頭候補とされてきた。これはNASAの2機目の火星着陸機である「ヴァイキング2号」の目的地にもなった場所である。

配備された探査機は、少なくとも3カ月かけて火星の環境を調べる。中国国家航天局はこの探査機の詳細も、どのような実験を実施するかについてもほとんど明らかにしていない。しかし、今月『Nature Astronomy』に掲載された中国科学院の研究者の論文によると、このミッションの目的は「火星全体の包括的で大規模な調査を実施する」ことにあるという。

探査機は円形の本体から太陽光パネルがいくつも扇状に突き出しており、これを通信システムと6つの搭載機器の電力として使用する。2台のカメラに加えて、地下探査に用いるレーダー、火星の微弱な電磁場の検知機、火星の土壌成分の測定機、火星の天気をモニターする機器も積むことになる。探査機の活動は着陸地点から200〜300mに限られるが、周回機は火星に関するより包括的なデータを収集できる。

中国のミッションが注目に値する理由

「天問1号」は月よりも遠い宇宙を目指した中国初のミッションだ。中国の科学者は2011年、ロシアのミッションに火星周回機を便乗させたが、打ち上げから間もなくミッションは失敗している。