Vol.50 本格開始されたLTEの上空利用サービス[春原久徳のドローントレンドウォッチング] | DRONE
昨年8月のコラムで「携帯電話等の上空利用を考える」という内容を書いたが、ようやく本格サービスが開始された。
LTE上空利用サービス
NTTドコモが7月に「LTE上空利用サービス」を発表した。それは、ドローンにプラン対応のSIMカードを挿入、もしくは同SIMカードを挿入したLTE対応端末を搭載することで、上空のモバイルネットワークを利用できるものとなっているものだ。
月額料金 | 49,800円(税込み) |
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利用可能データ量 | 120GB |
通信規格 | 4G LTE |
通信可能エリア | 全国 |
上空でモバイルネットワークを利用する際は、プラン契約後、契約者向けの「LTE上空利用予約」で利用日時、場所、台数、高度などの事前予約が必要となっている。
参考:docomo sky「LTE上空利用プラン」
月額料金が49,800円という点や利用可能データ量が120GBという点に関して、実利用の際には、まだ課題があるが、それは各利用者が本格活用する流れになり、また、他のキャリアも同様なサービスを展開する局面において、改善されていくことだろう。
LTEの上空利用で変わること
LTEの上空利用(ドローンのSIM搭載)でどんなことが変わるのか?大げさな言い方をするなら、この上空利用でドローンの活用そのものが一変する分岐点になるといってもよい。
今までもドローンは「空飛ぶスマホ」などと説明されていたりもしたが、これまではインターネットオンラインでない「スマホ」であった。インターネットオンラインでない「スマホ」など、ほとんど役に立たないように、それまではただそこで使われている部品が「スマホ」と共通部分が多かったというだけで、その内容において、「スマホ」的な機能をドローンは満たしていなかった。
それがこれからはまさに「スマホ」と同様な機能がドローン搭載されていくということになる。そういった近未来の話をする前に、現状、ドローン業界で注目されているポイントやその課題について記していきたい。
Level4への準備
来年度(2022年度)に実現されるLevel4(有人地帯における補助者なし目視外飛行)にむけて、現在、制度設計が急ピッチで進められている。その柱は以下の2つだ。
この内、今回のLTE上空利用に関わる部分は、機体認証の部分である。まだ、最終的に機体認証がどうなっていくのかは、今年度(2021年度)中に機体の安全基準の方向性を示すということになっており、以下が機体性能における技術ポイントとなっている。
LTE上空利用(通信)に関しては、この内の地上安全性といった部分に大きく関わってくる。その詳しい内容に関しては、まだ不明だが、現在もLevel3(無人地帯目視外飛行)における機体性能の留意点が示されており、その延長線上にLevel4も設定されていくだろう。
LTE上空利用においては、上記の最初の2つが大きく関わってきており、今までもLevel3での実証実験において、試験局制度を利用し、LTE上空利用は実験利用されてきている。そのため、Level4実現にむけて、LTE上空利用はドローンの業界関係者の中では以下が注目されているポイントとなっている。
そういった点においては、一旦は、長距離伝達可能な通信としてのLTE利用が注目されている。
LTE上空利用にむけた課題
今後、LTE上空利用にむけた課題はどんなところにあるか。まずは、その各飛行現場における通信である。
今後のLTE上空利用にむけて、今年度中に上記に関してきちんと検証しておく必要がある。
上空で繋がっても、どのぐらいの接続スピードが出るか、また、どのぐらいの品質でつながっているのかの検証も重要だ。これも、高度や日時・環境によって、異なってくる場合も考えられる。まずは、こういったLTE上空利用に関しての検証を行い、その内容に応じて、次のステップに進んでいく必要がある。次ステップとしては、FPVとテレメトリーに関しての各内容を決めるための実験となる。
LTEの通信状況に応じて、データ内容(静止画・動画)や送信容量(解像度や送信サイクル)を決めていく(通信状況に応じて、可変に対応できるとなお好ましい)。また、LTEがつながらなくなった場合のフェールセーフや代替手段の対応も決めていく必要がある。
LTEの通信状況に応じて、テレメトリー内容(飛行位置、高度、飛行スピード、機体状態など)を決めていく(通信状況に応じて、優先順位の高いものから送信できるような機構があるとなお好ましい)。また、LTEがつながらなくなった場合のフェールセーフや代替手段の対応も決めていく必要がある。
Level4だけでなくLevel3を含む補助者なしの目視外飛行での活用を検討している企業や団体は、今年度中までに、以上の検証を行い、その対策を詰めておく必要があるだろう。
ドローンのLTE搭載が本質的なドローン活用の分岐点となること
ここまでLevel4およびLevel3を含む補助者なしの目視外飛行での活用をベースにドローンのLTE搭載を記してきたが、そのことだけがドローン活用の本質的な分岐点になるというわけではない。当然、補助者なしの目視外飛行が可能になることで、今後様々なことが変わってくる。
今まで実証実験で行われている目視外飛行というと、一つは物流であり、一つが広域調査であったであろう。物流においては、この補助者なしの目視外飛行のルールが定まることで、一層ビジネスモデルをどうしていくのかという具体的な計画に落としこんでいくことになるだろう(個人的な主観でいえば、やはり緊急性が高く、重さあたりの単価が高い薬や血液といった医療関連の配送がその文脈にのりやすいとも思うが、その考察についてはまた別途行いたい)。
広域調査のエリアでいけば、来年度より日本においても、SDGsの関係もあり、山林や森林の調査を本格化させていく動きがあるので、その際は補助者なしの目視外飛行ルールが定まることは、そういった調査の計画を進めやすくなるという一面はあるが、一方で、上空でのLTEの接続が気になる部分だ。
筆者も今までもそういった地域でいくつかの調査を実施したケースがあるが、地上であってもスマホのLTEがつながらないケースは多く(つながっても3Gだったりする)、この広域調査での上空でのLTE利用に関しては検証が必要だし、もし本格的に使うのであれば、移動の基地局みたいなものが必要になってくるように思う(ただそうなるとLTEが最適な選択なのかという問題もあるだろう)。
そういった既存の延長で、ドローンのLTE搭載を記してきたが、今回の動きの中で、重要なのは、「補助者なし」の目視外飛行という点である。
実現は再来年度ぐらいになるかとも思うが、今後、活発化することが予想されるのは、ドローンステーションから必要に応じて離発着するドローンソリューションだ。
それはどんなソリューションかというと、例えば、災害危険地域にこのドローンステーションが置かれ、もし何らかの災害が起こった場合には、ドローンが遠隔地からの指示に従い離陸し、災害地点の調査を行い、ステーションに自動的に戻ってくるというものだ。ドローンステーションに戻ってきたドローンは、データを中央センターに送り、ドローンへの充電もしくは電池の交換が行われる(その際、ドローンはLTE搭載しているため、遠隔地でその状況を把握することも可能で、また、何か障害が発生したときは、機体にコマンドを送り、遠隔操作といったものも可能になるだろう)。
こういったニーズは、災害調査だけでなく、その他の調査、監視といった業務において、多くあるだろう。これはドローンの可能性を大きく広げるものになるだろう。コストとのバランスが取れれば、農地の生育調査や点検といった比較的日常の中で使われるケースは増えてくるだろう(既に要素技術は揃ってきているので、来年度ぐらいから実証実験が各所で実施され、早ければ再来年度ぐらいから本運用される可能性がある)。
今後、2~3年の間に、すべてのドローンがLTE搭載になっていくだろうということを予測しているのだが、それは上記のような使用方法だけでなく、その他の様々なドローンの実運用の中でLTE搭載のメリットが大きいからだ。
- 機体運用管理今後、ドローンの実運用が本格化してくるにしたがって、企業として重要になってくるのは、各機体の運用管理である。これはTAXI会社の配車システムなどを想像してほしい。例えば、各点検でドローンを実運用しようとした場合、各機体やフリート(オペレーター)の申請許可、実際の飛行場所、各機体の飛行時間、機体のログデータ、次フライトに向けた準備など実管理する項目は多い。こういった項目がLTE搭載ドローンであれば、そのドローンの内部情報をクラウドに送信し処理するようなソリューションを構築することで、一気に解決する(DJIのFlight Hubが参考になるだろう)。
- 取得データのリアルタイム送信現在のドローンの産業利用において用途として多いのは、搭載したカメラやセンサーでの情報収集である。測量・点検・調査・探索・監視などの業務活用において、取得したデジタルデータを合成や解析し、業務に役立てようとしている。実際、そういった業務を行っている中において、苦労するのは取得したデータ処理である。多くがカメラやセンサーのSDカードにデータが入っており、それを多くの場合は、インターネットがつながる環境において、PCなどからクラウドにあるデータ格納スペースやクラウドアプリケーションにアップロードを行うというプロセスを取る。そのため、その処理には半日~2日程度かかるケースが大半だ。この取得データのリアルタイム送信は、その処理時間を圧倒的に短縮するものだ。例えば、災害調査などの例が分かりやすいだろう。通常、災害調査は、災害調査の地域でドローンを写真測量や農地のリモートセンシングと同様にオーバーラップやサイドラップを計算し、自動航行にてジグザグに飛行させ静止画のデータを取得する。その数十枚から数百枚、広さによっては数千枚のデータをクラウドもしくはPC上のアプリケーションで合成し、オルソ画像を作成し、そのオルソ画像をベースに解析を行う。通常、その解析まで半日程度はかかってしまう。もし、飛行中にデータをクラウドに送信することが出来れば、その処理に関して、数分から数時間と短縮が可能だろう。また、もし画像もしくは映像とその飛行位置情報が対策センターにライブで届くことが出来れば、そういった合成処理をしない手法も可能となり、災害時において、迅速な対応が可能となってくるだろう。
- 画像や映像解析におけるAIの活用現在において、ドローン上でAIを使うには、そのリソースに制約があり困難なケースも多い。SLAMといった自己位置推定と環境地図作成を搭載したGPUを利用する形で、GNSSが取得できないような空間での自律飛行の手法が進んできてはいるが、どうしても多くの電力を消費することもあり、飛行時間に影響を与えている。今後、こういった処理においても、クラウドと連携することでより高度な処理も可能になっていく可能性がある。現在、IoTとクラウド上のAIが連携する中で多くのソリューションが生まれているが、空飛ぶIoTであるドローンはその可能性を各段に広げていくだろう。それは例えば、現在、顔認識はAIの中で進んでいるソリューションの一つだけれど、ある特定人物を探し、その人物を追尾する(徘徊老人の探索など)といったこともAI+ドローンの中で可能になっていくだろう。
NEXT ACTION
ドローンを活用している、もしくは、活用を考えている企業や団体は、すぐにこのLTEの上空利用(ドローンのLTE搭載)に関して、まず、実証実験の計画を立てるべきである。今後、2~3年の間に各段にドローンの活躍の幅が広がるからだ。
しかし、現在、NTTドコモはLTE上空利用サービスの発表をしたが、その専用SIMもしくは専用SIM搭載デバイスを、どうしたらドローンに接続できるのかということに関して、様々なケースがあり、サポートを行っていない。
筆者がCEOを務めるドローン・ジャパンでは、LTEのドローン実装に向けたコンサルティングサービスおよびPoC(実証実験)パッケージの提供を行っている。興味ある方は、ご連絡をいただければと思います。
ドローン・ジャパン問合せ:info@drone-j.com