中国が実験したのは宇宙船か、それとも航空宇宙戦闘機なのか
11月22日(イギリス時間)、英紙フィナンシャルタイムズは「中国の極超音速兵器が南シナ海上空でミサイルを発射した」と報じました。同紙は先月に「中国が極超音速兵器を打ち上げて地球を一周してから降下突入させた」と報じており、部分軌道爆撃システム+極超音速兵器の組み合わせかと推測されていました。その続報になります。
今回の報道では、衛星軌道から降りて来た飛翔体が極超音速兵器として宇宙と大気の狭間の高度を飛びながら、何らかの発射体を分離した・・・事実ならばそれは極超音速兵器というよりは、「航空宇宙戦闘機」「Aerospace Fighter」といった、SF映画に登場しそうな未来兵器になります。
しかしそれは本当に事実なのでしょうか?
パイ・ワケットは敵の地対空ミサイルを迎撃する防御兵器でした。レンズのような円盤状の設計は、マッハ3で飛ぶ超音速爆撃機の全方向から発射できるように考慮されたものです。つまり真横にも打ち出せます。
もし中国がパイ・ワケットと同じような防御兵器を極超音速滑空ミサイルに積み込んだ場合、敵の迎撃ミサイルの接近を感知する警戒センサーを搭載する必要があります。警戒センサーと迎撃ミサイルの搭載は機体の巨大化を意味します。元から大きな爆撃機ならば問題は生じませんが、使い捨てにする極超音速滑空ミサイルを巨大なものとすると、運搬システムである打ち上げ用ロケットも巨大化してしまいます。
果たしてそれは費用対効果の良い兵器と言えるでしょうか? 技術的には60年近く前からある古い発想です、可能でしょう。ですがミサイルに搭載する意味があまり見出せません。
複数弾頭「配達」の可能性
極超音速滑空ミサイルは弾道ミサイルのMIRV(複数個別誘導再突入体)のような一つのミサイルに複数の弾頭を搭載することが難しい兵器です。例えばロシアの極超音速滑空ミサイル「アヴァンガルト」は巨大なICBM「UR-100N UTTKh」の派生型「ストレラ」を発射加速ブースターとしますが、それでも搭載する弾頭は1発のみとされています。
そこで一つの大きなミサイルに複数の小さな極超音速滑空弾頭を積むのは難しいのであれば、一つの大きな極超音速滑空弾頭に小さな複数の弾頭(滑空型ではない)を積んで配達に行けばよい、と発想することも一応はできます。
確かに過去アメリカ軍に原子力推進の巡航ミサイルに複数の核弾頭を積んで爆撃機のように複数目標に配達する「PLUTO」計画がありました。しかしこれは無限の航続力を持つ原子力推進巡航ミサイルだから行えると発想されたものです。
極超音速滑空ミサイルは左右の変針が可能といっても所詮は滑空しているだけなので、何度も変針すれば速度は落ちて有効射程はどんどん短くなります。複数の目標に核弾頭を効果的に配達に行くことは条件的に難しいでしょう。
中国の実験で南シナ海の上空で極超音速兵器から切り離された物体がこの種の配達用の弾頭とは、少し考え難いものがあります。
中国は先月に回答済み
実は中国外交部は先月の最初の説明で、「南シナ海の上空で切り離された物体」に相当するものについて既に言及しています。
以下は2021年10月18日の中国外交部の定例記者会見です。
航天器返回前分离的是航天器配套装置,将在陨落大气层的过程中烧毁解体,落于公海海域。 (宇宙船が帰還する前に、分離される宇宙船の補助装置は、大気圏に降下する過程で燃焼および崩壊し、公海に落下します。)
この公海とは南シナ海のことを指すのであれば、フィナンシャルタイムズ紙が今回報じた内容「中国の極超音速兵器が南シナ海上空でミサイルを発射した」について、中国外交部は先月に既に「宇宙船から分離した部品」だと回答済みとなります。
なお中国外交部は11月22日の記者会見でも、先月の10月18日の記者会見の時とほぼ同じ説明を繰り返しています。
関連記事:中国が実験したのは宇宙船か、それとも部分軌道爆撃システム+極超音速滑空弾頭か(2021/10/19)