沿って, Uav-jp 27/02/2023

レジ待ち時間が減る?JR東の「無人決済」売店

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現在、「ホーム上の売店の復権」を目指してか、JR東日本グループが最新テクノロジーを取り入れた実証実験を実施している。IT関連のコンサルティングを手掛けるサインポストが開発したAI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」を用いた無人決済売店だ。

昨年11月にも同システムを用いた無人売店の実証実験を行っており、今回はその第2弾。前回は大宮駅西口のイベントスペースを利用して7日間だけという限定的なものだったが、今回の実験では赤羽駅の5・6番線ホーム(湘南新宿ライン発着ホーム)に設けた店舗で10月17日から約2カ月間にわたって実施する。10月16日、店舗を報道陣に公開した。

駅の売店を取り巻く環境が変化

JR東日本グループでベンチャー企業と組んで新事業を展開するJR東日本スタートアップの柴田裕社長は言う。

「駅の売店というと、新聞・雑誌・たばこ。この3商品が大定番でした。が、最近はこれを買う人がだいぶ少なくなった。さらに商圏の変化で、駅構内に『NewDays』があり、駅前にもコンビニがたくさんできました。みなさんそこで買い物をされるので、ホームの上の売店でサッと買って電車に乗る……という光景は減ってしまった。いままでの売り方をしていたら店舗として立ち行かなくなってしまいます」

仮に売店があったとしてもバーコードを読み取ってお会計もSuicaなどのICカードでピンピロリン。まあ、少なくとも熟達のおばちゃんの時代はとうの昔に過ぎ去ってしまったのである……。

柴田社長は「前回の実験成果を踏まえ、より現実のオペレーションに近い形でやっていく」と狙いを話す。

デモンストレーションで商品を手に取る客役の女性。欲しいものを棚から自分で選ぶことができる(編集部撮影)

その言葉どおり、今回の実験店舗はかなりホンモノの“売店”に即したものだ。もともとキオスクがあったという約21�屬療絞淨發吠造屬里狼�ノ国屋が扱う商品の約140種。入り口でSuicaなどの交通系ICカードをタッチして入店すると、天井部に設けられた16台のカメラで捕捉される。

買い物は欲しいものを棚から選んで手に取るだけだ。そのまま決済エリアに立てば自動で合計金額が計算され、Suicaをタッチして決済終了。出口のバーが開いて退店できる。

商品は何点でも購入できるし、買い物途中に棚に戻してもOK。こうした動きがすべてカメラによって解析されて正しい金額が算出される仕組みなのだとか。

「商品を選んで手に取った時点で把握されますから、決済エリアでは手に持っていなくても大丈夫。すぐにカバンに入れてしまっても問題ありません。万が一金額が間違っていても決済エリアで減算処理などができます」(JR東日本スタートアップの阿久津智紀マネージャー)

レジ待ち時間が減る?JR東の「無人決済」売店

商品は複数選んでもきちんと認識される(編集部撮影)

「現時点では精度の問題も考慮して、3人までの入店とさせていただきました。実際にはもっと多くの方が入店しても大丈夫だとは思っていますし、ゴールは入店人数無制限。ですが、今回はあくまでも実証実験ということで」

商品を手に取ったり戻したりしてもまったく問題なく正しい金額が算出されるという。決済時間もほとんどかからないので、購入する商品があらかじめ決まっていれば、入店から退店まで、ものの10秒程度ということも可能だ。これならば、いくら熟達のおばちゃんでも太刀打ちできないだろう。

まだまだ課題はある「無人店舗」

「もちろん、カメラで識別しにくい紛らわしい商品の処理や、商品の入れ替え、パッケージ変更への対応、さらには酒類やたばこなどを販売する際の年齢確認など課題はまだまだあります。実際の運用の中でどの程度の精度を出せるかも確認したいところ。営業時間を平日の10〜20時としているのも、こうした理由からです。ただ、赤羽駅のホーム上という現実のオペレーションに近い中で実証実験をすることで、本格的な実用に向けての課題が洗い出せるのでは」(阿久津マネージャー)

合計金額は画面に表示される(編集部撮影)

では、JR東日本ではこの無人店舗、どのような場所への展開を想定しているのだろうか。

交通系ICカードでの支払いが終わると出口のゲートが開く(編集部撮影)

「都市部では人手不足もあって売店の展開が難しくなっている部分がある。さらに環境の変化で不採算の店舗も増えている。また、地方の駅などで採算が悪くて閉めざるをえない売店も、この無人店舗が実用化されることで引き続き営業をすることもできる。実用段階に来れば、人手不足や不採算の店舗を補う形で展開できるのではないか」(柴田社長)

「正直なところ、完全無人化というのは難しいと思っています。そもそも品出しはどうしたって人の手が必要ですし。ただ、今まで4人必要だったところを2人にするとか、時間帯によっては無人化するとか、そういう対応が可能になってくるのでは」(阿久津マネージャー)

AIによる無人店舗というと、あのアマゾンが展開を始めた無人コンビニ「Amazon Go」が連想される。また、もう少し原始的なところでは品ぞろえこそ少ないが自動販売機だって“無人”で買い物ができる店舗のひとつと見ることができる。

これらとの大きな違いは、どうやら「駅のキオスクの次世代版」というところにあるようだ。きっかけとなったJR東日本スタートアッププログラムも、JR東日本の持つインフラをベンチャー企業のアイデアで活用していくという主眼で始められたもの。この無人店舗も鉄道インフラありきで開発が進められているようだ。

将来的にどう展開していく?

柴田社長は「現時点では夢物語ですが」と前置きしつつ、「ホームやコンコース全体を店舗のようにできるとおもしろい」と話す。

無人決済の実証実験をする赤羽駅の店舗(編集部撮影)

「ホームに上がって中央の通路の両サイドに駅弁やドリンクが並んでいて、好きなものを取ってからSuicaをタッチして決済、そのまま電車に乗り込む……。もちろん今の段階ではAI無人決済店舗の実用化もまだまだ先ですから、完全に夢のような話かもしれません。でも、そうなったら楽しいと思いませんか」(柴田社長)

今やどの町にも“インフラ”としてコンビニが必要不可欠になっているのは周知のとおり。ただ、それと同じように駅のホームにも売店、キオスクはなくてはならない存在だ。

忙しい通勤の合間に飲み物や軽食を買ったり、心浮き立つ旅立ちの前に駅弁やビール、おつまみを調達したり。そうして駅のホームならではのちょっとした“旅情”が生まれている。無人化に一抹の寂しさを覚えなくもないけれど、「AIを活用した無人決済店舗」が次世代の「駅の売店」として旅の起点になるのではないか。

そんな期待をさせてくれる今回の実証実験。約2カ月間赤羽駅ホームで続けられているので、ぜひ足を運んで実際に体験してみてはいかがだろうか。