コロナ禍の環境変化をビジネスチャンスに--中小企業のフードテックやデジタル戦略を支援する愛媛県
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愛媛県では2020年6月から、中小企業者による、新しい生活様式に対応した商品・サービス開発を支援する「新生活様式対応商品開発等支援事業」を実施しており、2021年4月には2年目を迎えた。 「新型コロナウイルス感染症に起因する社会環境の変化を好機へと変える中小企業者の前向きな取り組みを促進する」というのがテーマだが、現在どのような形で進んでいるのだろうか。愛媛県 経済労働部産業支援局経営支援課地域産業係長の田窪直文氏に聞いた。「新しい生活様式」に合わせた商品開発を県を挙げて支援――「新生活様式対応商品開発等支援事業」は、どのような経緯でスタートしたのでしょうか。 コロナ禍が本格化した2020年5月さまざまな産業が大打撃を受けていました。県内でも飲食店向けに出荷していた養殖魚などの農林水産物やタオルなどの地域産品の販路縮小に苦しむ声などが、多く寄せられました。一方で、いち早く「巣ごもり需要」や「密の回避」に着目し、他社に先駆けた新商品開発により売上を伸ばしている企業も存在したことから、新生活様式に対応した商品開発を支援することで、県内の事業者の前向きな取り組みを後押しできるのではないかと思いスタートしました。 初年度の事業を終えて、2021年3月には「内食需要の高まり」「健康志向の高まり」「感染予防の基本・衛生維持」「デジタル技術を活用した生産者支援」という4つのテーマで成果を発表しました。 1つ目の「内食需要の高まり」については、料亭の休業などで養殖日本一である「鯛」が売れない状況もあって、多くの企業が鯛を使った商品を提案してくれました。2つ目の「健康志向の高まり」については、愛媛県は柑橘系作物の生産量で日本でも1位、2位を争っていることもあり、柑橘の栄養素に着目した商品が3つほど出てきました。 3つ目の「感染予防の基本・衛生維持」については、コロナ禍でマスクやアルコール消毒などの需要が伸びたこともあったため、需要が高まるであろう衛生商品の提案も求めました。すると地元のシルクを使ったマスクや、石鹸、ペットシャンプーなどが誕生しました。そのほか、本来は廃棄するホタテの貝殻を使った消毒液など、SDGsにも配慮した商品を作った企業もありました。 4つ目の「デジタル技術を活用した生産支援」では、コロナ禍でデジタル化が進むだろうという仮説予測もあり、そこで誕生したのがエフエム愛媛が中心となって実現したデジタルマーケティングの取り組みでした。複数社が連携する「連携体枠」でさらなるステップアップを狙う――現在は令和3年度の事業が終盤に入っていると思いますが、どのように進んでいるのでしょうか。 令和3年度も「アフターコロナを見据えた商品開発」というテーマは昨年度と同様ですが、大きく変えたのが「連携体枠」です。 前年度は個社が行う商品開発を支援していましたが、現在は想定した以上にデジタル化が進んでおり、多くの人がネットでいろいろなものを購入されています。しかし、ネットで販売するとなると個社では難しいところもあるため、4社以上でしっかりとデジタルマーケティングを行い、連携して商品開発をするための「連携体枠」を設けました。 補助金については、個社の場合は上限250万円、2分の1を支援する形ですが、連携体枠では4社以上で上限1000万円、補助率3分の2として、補助率を上げて取り組みやすいようにしました。今年度は連携体枠で3つの事業、一般枠としては21の事業を採択しています。――愛媛県は「Ehime Food Innovationコンソーシアム」なども立ち上げていますが、たとえばフードテックを活用した事例はありますか。 1つ目は宇和島プロジェクトが中心となって進めた「デジタルマーケティングを活用した新たな水産加工業の挑戦」という事業です。 日本一の養殖鯛の産地である南予地域の水産加工会社である宇和島プロジェクトと愛南サンフィッシュ、ハマスイの技術やノウハウを生かしながら、エフエム愛媛の情報発信力や地域商社的な活動によって連携し、南予を盛り上げていこうと取り組んでいます。 元々は宇和島プロジェクトが地元の郷土料理店の「かどや」とコラボレーションをして、鯛のかぶと煮などをネット販売したのがきっかけでした。日本一の養殖鯛と地元の郷土料理店が連携して冷凍食品を作るという取り組み自体もいいのですが、さらに同業者ともコラボレーションすることによって、鯛の養殖日本一である産地的な価値をさらに高められることになりました。 個社が加工食品をネットで販売していても、発信力がなくて埋もれてしまいます。しかし4社が集まればプロモーション費用を多く使えますし、相乗効果が出やすくなります。連携体枠で4社が連携することによって、さらに発展が望めるのではないかと思います。 もう1つユニークなのが中温の「鯛の歩留まりを90%以上にする鯛ペースト、真空調理食品の開発」という事業です。 SDGs志向の高まる中ですが、鯛は通常40%から50%ぐらいしか食べるところがなく、あとは捨ててしまっています。この事業では鯛の切り身を真空調理によって鯛料理加工品にするだけでなく、鯛のアラを「飽和蒸気調理機」を用いて骨まで柔らかくペースト状にすることで、鯛の90%を商品化できるというものです。廃棄率を大幅に削減できるだけでなく、歩留まりもアップできるため、原価を抑えることができます。――「ドローンを活用した世界基準で革新的な栽培支援サービスの提供」というのもありますが、これはどういったものなのでしょうか。 ドローンを使った農薬散布は、平地で行う米などの栽培にはすでに浸透しているのですが、山間部で栽培する柑橘のような栽培では、ドローンを活用した農薬散布の効果に対するエビデンスができあがっていません。そこでミヤモトオレンジガーデンが、それをできる仕組みを実現できるように開発を進めているところです。 ドローンを使った農薬散布の手法を、世界的な農業の安全基準であるグローバルGAP(GLOBAL G.A.P.)に対応させることで、自社だけではなく、柑橘を育てる高齢農家の方々にも安価で使ってもらえるような支援サービスを実現しようというのが事業の狙いです。ライブコマースなどのデジタル活用も実施――デジタルマーケティングやライブコマースなど、デジタル活用の事例を紹介していただけますでしょうか。 1つ目は連携体枠である「大洲産シルク×高付加価値の食品・クラフト製品開発」事業です。大洲では豆腐スイーツや枕カバー、愛媛県特産の砥部焼など、それぞれの会社がシルクを使った商品を開発しており、そういったものをライブコマースで販売することで、反応を見ながらさらなる商品作りに生かしていくといったことを行っています。 (連携体の代表事業者である)KITAは古民家の改修や、大洲城に1日100万円で泊まれるサービスなどを展開しており、尖ったプロモーションの力があります。ここでできた商品をさまざまな企業に売り込むなど、販路支援も行っており、大きな企業が、小さな企業をまとめ上げて地域産品を売っていく形になっています。 小規模企業ではなかなかライブコマースを活用した商品開発やデジタルマーケティングを行うのは難しいと思うのですが、地域DMO(観光地域づくり法人)の持つ組織力や資金力などを背景にまとまることでライブコマースを実現し、そこで得たデータを商品開発に生かしていくことができます。地元のテレビ局が中心ではありますが、テレビ局をうまく活用したプロモーションなども実施しています。――先ほどの「デジタルマーケティングを活用した新たな水産加工業の挑戦」もデジタル活用をかなり進めていると思うのですが、どういった取り組みを行っているのでしょうか。 こちらは魚に液体を注入することで行う「脱血処理」の特許技術を持つハマスイと、さまざまな規格製品の加工が可能な愛南サンフィッシュ、急速冷凍が可能な宇和島プロジェクトのプロトン凍結機と、各社にしかない技術や機器を用いて「鯛まるごと1尾セット」という新商品を開発しています。 南予地域の養殖鯛を使ったフラッグシップ商品としてマーケットイン型で商品開発を進めていますが、消費者が求める商品像を実現するためにデジタルマーケティングによる市場調査やターゲティング設定、品質基準設定、さらには商品情報や生産地のストーリーの情報発信などを行っています。 情報発信については1社ではできないスケール感で「日本一の鯛の養殖産地」だからこそ持つ価値、地域の特色、産地の情報などの発信を行っています。最終的には鯛の養殖や加工などを起点としたワーケーションなどの体験型観光にもつなげていきたいという狙いを持っています。 ほかにもぜひご紹介したい事業があります。それが、バーチャルキャラクターを実寸でリアルタイム表示できる三五屋の「“Monolis”(モノリス)」というものです。 最近では、バーチャルキャラクターをリアルタイムに動かしながら動画出演などを行う「VTuber(ブイチューバー)」などが増えていますが、通常は腕や足などにセンサーを装着して動きを検出しています。モノリスの場合はカメラの前に人が立って動くだけで、バーチャルキャラクターがその動きと連動して動くようなシステムになっています。 私たちが聞いているところでは、国会議員の街頭演説などを1つの場所でやりながら、他の場所にもディスプレイを設置することで街頭演説を盛り上げる、みたいなものを考えているそうです。 コロナ禍での非接触・非対面がいつまで続くのかは分かりませんが、コロナ終息後にもそれ相応には残るのではないかと考えられます。そんな中で、簡易的な映像転送システムみたいな形で活用される可能性があるのではないかと思います。愛媛県の特産品や技術を世界に広げていきたい――これまで「新生活様式対応商品開発等支援事業」について伺ってきましたが、そのほかに食にかかわるICT活用の事例などはありますか。 先ほど養殖鯛の事業を紹介しましたが、愛媛県 農林水産研究所 水産研究センターでは、愛媛県宇和海の水温や水質などの海況情報をリアルタイムで見られる「You see U-Sea」というサービスを提供しています。赤潮の発生状況をユーザーが報告できる「宇和海水産アプリ」などもAndroid、iOS向けに提供しており、報告件数が増えるほど赤潮発生の予測精度が向上するような仕組みになっています。――それはすごく面白い取り組みですね。 こちらも支援事業とは関係ないのですが、排水処理装置の設計や施工を行う愛研化工機という企業があります。工場の排水を処理したり、排水からエネルギーを取り出したりする世界でもトップクラスの技術を持っている会社なのですが、水質分析や設計、機器選定などを行っており、施工は別の会社に委託するファブレス型企業なのです。 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の技術研究開発事業に採択されるなど、世界的にも注目される技術を持っています。 愛媛県は一次産品が主要産業ですが、食を加工する技術にも優れた可能性がありますし、愛研化工機のように世界的にも優れた技術を持つ企業もあります。そういったものをうまく国内や海外に売り出していければいいなと思っております。 CNET Japanでは2月21日からオンラインカンファレンス「 CNET Japan Live 2022 ~社内外の『知の結集』で生み出すイノベーション~ 」を2週間(2月21~3月4日)にわたり開催する。2月24日のセッション「愛媛発!食のイノベーション創出!!~”知”を集結したフードテックへの挑戦~」では、田窪氏にフードテックによる地域経済活性化を目指した取組の現状・将来像・課題や県内企業の取組について、具体的な事例を交えながら語ってもらう予定だ。後半では質疑応答の時間も設けるので、ぜひ参加してほしい。
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